森林美学基礎理念の応用

 森林美学の第2編は森林美学の基礎理念の応用となっています。さらに第2編はA:森林造成と森林経済、B:森林の装飾とされています。Aで林業経営と森林施業における森林美の発揮、Bで森林デザインによる森林美の向上が取り上げられています。応用のAが森林施業に美を主張する森林美学の眼目があると考えられます。
 第2編A応用の第1章で広く土地利用と生活空間への森林の配置計画と配置の必要が必要性が主張され、森林を中心としたランドスケープ計画が示されていると言えます。森林が原初の時代に土地の被覆であった状態から、農耕文明とともに農地が切り開かれ、集落が成立し、近代文明とともに都市部の土地利用が拡大することによって、土地利用と生活環境のバランスのための社会的計画(農地開発計画・都市計画・ランドスケープ計画)を必要としました。とくに、自然的環境を多く残した森林も林業のための土地利用の一部ではあるのですが、個々の住民の生活に必要となる自然として、最低限必要な配置、面積を指摘しています。これは前書きに記す郷土保護運動への賛同と重なり、森林のための土地利用にランドスケープ計画となる意義を含むことを指摘するものです。
 森林をランドスケープ計画の対象とする意義として、社会の基盤となる労働者、地域住民のレクリエーションの場としての効果を指摘しています。一方、応用編の次章からは、森林経営者、森林管理技術者の美的配慮への指摘が取り上げられ、ランドスケープの方法、技術へと展開しています。このランドスケープの方法は林業経営の経済的な目的にも矛盾するものではない点で、施業林の「森林芸術」であり、その作品の製作者は森林経営者、森林管理技術者であることが、指摘されています。作品は、森林の有する自然美の助長、向上によって生じる芸術美となります。自然美の助長には、森林の自然科学の知見が必要となります。当時の森林諸科学の進展が基礎となりました。森林の芸術美は自然科学によって自然美としての作品を創造することになります。また、森林施業は自然美を向上させる天然林施業へと近づき、それだけに人工林から遊離していきます。
 第1編のランドスケープ計画は、各種の土地利用を包含し、森林芸術はその一部となります。畑地の耕作芸術、草地芸術などが含まれます。森林は人為的な土地利用であるとともに、自然環境となる風景要素にもなる点が、草原景観と近接し、他の人為的な土地利用と相違しています。森林は自然環境を構成する自然の生態系を包含しいるといえますが、植生地理、生態学の進展は、ザーリッシュの時代以降に生じました。