今田森林美学講義録解題
今田森林美学は講義に終始しており,著書として公刊されたものはない。これまで,森林美学に関して,歴史と批判の著者として著名ではあるが,ザーリッシュ森林美学の全体像をどのように考えていたかは明らかではなかった。小生も卒業論文の指導を受けていながら今田先生の造園あるいはランドスケープに関する考えを十分に知っているとは言えなかった。2018年,ザーリッシュ森林美学英訳本の翻訳に関係し,今田先生の講義を思い起こし,ザーリッシュからの継承と展開点を明らかにしたいと考えた。
ザーリッシュの森林美学は基礎編と応用編に分かれており,基礎編ではランドスケープの美学に基づいて,森林美学を位置づけている。ピクチャーレスクの美とその科学的理解を目指したギルピンの考え,ピュクラー・ムスカウの風景式庭園の実践を評価し,技術を芸術に高めるゲーテの考えを尊重し,林業に展開する応用編を展開している。今田先生の歴史と批判の論文は,林業,林学分野を中心に,森林管理の功利と美の関係を中心としており,ザーリッシュ森林美学の応用編を取り上げている。しかし,ザーリッシュの著書は森林美学の歴史を中心にするものではなく,林業技術・林業経営における実際的な美学の可能性を明らかにするものといえる。歴史と批判は,基礎編の美学解説を棚上げにした議論といえる。
以上に対して,講義録はザーリッシュ森林美学の基礎編を中心に置き,日本では,志賀重昂の日本風景論,イギリスではラスキンの近代画家論などを参考として継承している。また,三好学などの植物学及び生態学の知見を取り入れ,ザーリッシュの基礎編を補強している。私事になるが,卒業論文の指導を受けた過程で,アメリカのハバード・キンボルのAn introduction to the study of landscape design 1917を参考書に提示され,一部,訳していたので,講義録と対比して見ると,An introductionは森林美学がランドスケープ・デザインに一体化した点が講義録に一致している。伊藤太一氏によれば,オルムステッドに始まる近代ランドスケープが地域計画の土台を持ち,これにピュクラー・ムスカウの風景式庭園の実践が影響していることを示唆している。ハバード・キンボルの著書はランドスケープの教科書として最初のものである。この影響のもとで今田講義録には近代ランドスケープの考えが導入されている可能性がある。また,アメリカのランドスケープはウィルダネス体験を通じて原始的な自然環境に結合している点も指摘されており,講義録も自然公園を最終部分としており,自然風景が至上のものであることを示唆している。
今田森林美学講義録目次(下線はザーリッシュとの共通項)
Forestaesthetik und Landshaftliche Baukunde
1 Einleitung(総論)
2 Naturshoene自然美
3 Naturgefuehl 自然感情
4 Der Aesthetische Wert der Horzarten樹木の美的価値
5 Der Aesthetische Wert der Horzarten樹木の美的価値(続き)
6 樹木の集団・配植
公園と林業Park und Forestwirtscaft
森林美の育成 Waldschoenheltspflege
国有林の風景施設
7 Gruenflaeche 緑地
8 Gruenfflaeche 緑地(続き1)
9 Gruenfflaeche 緑地(続き2)
10 Gruenfflaeche 緑地(続き3)
11 自然公園
12 街路樹
ザーリッシュ森林美学第1部森林美学の基礎理念 目次
セクションA 序章
- 森林美学の用語と役割 1
- 美の歓喜の原因 3
セクションB 自然の美 2
- 自然美と芸術美の関係に関する基本的見解
- ランドスケープにおける色彩の理論
- 森林の装飾としての石
- 樹種の美的価値 4
- 森の芳香と声
第Ⅰ部 まとめ