今田先生「森林美学」講義第7回  

 

今田先生講義録1964 北海道大学農学部林学科

12月2日

 

森林美の育成 Waldschoenheltspflege

 森林の風致を考えて取り扱う事を森林美の育成という。また,V. SaerischはこれをForstkunst林芸と呼んでいる。この方法は千差万別であるが,次の4つの方法の統一として考える事が可能である。第一の方法はSchtzung Pflege 保存と愛護,二はZugaendlichmachung 開発,三はVerschoenerung 美化,四はIdializierung der Forstwirdschaft 林業の理想化である。

 一は森林の自然美の保存,愛護を意味する。文化の向上につれて森林本来の自然美は失われていく。そこでこの方法の意義がある。この方法はある区域を限ってそのい中に含まれている自然保存あるいは保護をしようとするものである。時には森林の中の特別な自然物,老大木,滅亡に瀕する種類,歴史物,眺め,流れ,岩,泉,ある種の動物のような森林の自然を保存し,保護しようとするものである。これを法律の力で実施しようとすれば,天然記念物の指定がある。自然公園の中の特別地区,保安林の指定がある。Dimitzは森林の自然を保存,保護することと施業上の醜を避けることをもって,経済林において,実施しうる主要な方法と考えている。おなじような考えをGayer, Mayr, Buelerなども唱えている。

 二は,これは森林を風致的に開発し,その風致を利用するようにすること,例えば,原生林はそのままで,風致的に利用しない場合があるが,適切な道をつける,また,必要であれば宿泊場を設けるなどである。

 三は森林を装飾することで,これは造園的手段を使う。例えば,林内道路に並木を植える。林内の主要地点,例えば休息地点,眺望点,道路の交差点・・・に木を植える。目標となる所に装飾木を植える。林内空間の利用,花壇を設ける。従って,森林を飾ることは森林施業とは関係なく,付加したということになる。また,この方法には二つの流れがある。一つは造園的手段の応用を大切に考えるあり方,例えば,Kraft, Weise, Wappes ・・・他方,このような造園的手段をむしろ避けて,森林に自然を尊重しようとするもの,例えば,Buehlerは森林を飾る造園的手段の価値が」低いものだと言っている。また,Feuchtはドイツの造園家と森林家が施業林をしばしば風景式造園化しているが,それは風致的に見てもあまり面白くない。また,ドイツの近代都市近郊では公園林として取り扱われている森林が沢山あるが,苦労し,多大の労力をかけてしばしば満足できない場合がある。それはあまりに造園的である場所において適当であっても,森林であるか,公園であるか不明であるためであろう。

 四は施業林において最も大切な手段となる森林施業のすべての利用を・・・完全に適合させると同時に,風致的にも満足させるよう考えることである。このことはある利用の目的にある建築物をその目的に完全に適合させながら,非常に美しい・・こういったものである。森林美学はこのため多大の努力を払ってきた。森林の施業は利用と維持を目的としているもので,美意識を持っていないのが普通である。それ故,林業と合目的々でありながら,風致的には関心がないことはまれではない。著しいのは皆伐作業で昨日までの美林も裸にされ,伐採跡地が残される。伐採跡地は損なわれた自然の乱雑な印象を与える。一列に造林しても回復するには数年を要する,切ったままでは数十年も要する。また,回復するまでは幾何学的な伐採跡地の形は不調和である。それ故風致的には択伐が要求されている。林業の手段は本来の目的を達するため一つの限られているものではない。人工造林より天然更新を採用した方が風致的にも目的にも適うことがある。そして森林経理の場合も区画線は平地では直線でも差し支えないが,山地では地形に適わせた区画線が合理的であり,かつ美しい。また,林縁は枝打ちしないのが林業上の要求であり,林縁に潅木など自然に発生させ,林外から林内が見えないようにするのが美しく,造林の目的にも一致する。

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国有林の風景施設(2)開発

 国有林では最近,風致的利用に注意を払い,次のような施設を作る。

1. 林内外の歩道,これは巡視のための歩道,林道などを登山道路などに沿わせている。このような場合,道路沿い左右,30〜40mそれ以上を風致林帯として保護することがある。また,旧道を保存したり,特に道をつけることを避け,登山家のために保存していることがある。なお,風致利用者のため森林軌道の便乗を許したりする場合がある。風景地の橋を特に風致に合うよう設計したりする場合もある。

2. 路傍設備,指導標,里程標,方位標,植物名札,名所名札,腰掛け,野外卓,水飲み場,チリ箱の類,また,スキーヤーのための指導標など。

3. 野営指定地が設けられた時,指定以外のキャンプは許されない場合が多い。大抵の場合山小屋,温泉,旅館に近く大きなものは3−5ha,そして1haくらいのものもある。小さなものは0.1haくらいのものがある。大中の野営場には掲示板,水飲み場,ゴミ捨て場,キャンプファイアーの場所,卓付き腰掛け,などの設備がある。

4. 宿泊舎,造林小屋,狩屋,巡視詰所などで宿泊の便を図っていることがしばしばある。特にそのために設計したものもある。

5. 休憩所 展望台,東屋,巡視用展望台を風致の利用に提供している。但し,訪林者の多い景勝地では休憩所,東屋などは民間に貸地をして建てさせていることがある。

 木柵,鳥の巣箱,鑑賞樹,日本庭園などのある柵は海岸林,保護区など・・・公衆の出入りできる区域の境に設ける。自然の風景合えば,美しいものがある。・・鳥の巣箱もしばしば設けられている。鑑賞樹の植栽もあるが,自然風景

地では郷土樹種が望ましい。また,見本園を林内の一画に設けることがあるが,自然木に名札をつけた方が望ましい。

6. 電信用の鉄塔の敷地を利用者のために開放している場合がある。・・・

7. 禁猟区 国有林には多い。猟区を期間を限って利用させている場合もある。林内放牧がその風景に特徴を与えている場合がある。

8. 林内貸地 国有林内の営業用施設は大部分,貸地として民間で営利的に経営しているが,中には地方の公共団体による奉仕的な営業の場合も見られる。但し,貸与面積は最小範囲に限られている。