森林と林道開設

 森林利用にとって林道開設は不可欠なものとされている。大型林業機械の導入が、伐出作業の効率化のために普及してきている。機械の導入には作業のための林道が必要となり、その林業機械を移動させる幹線道路も必要とされる。
 1970年代の林業には、自動車の普及とともに、林業労働のための交通手段と、伐採した木材の運搬のための林道が必要とされた。そのための林道網の整備は、山村の道路整備にも寄与し、1960年代に計画された広域的な幹線道路の建設が進行した。しかし、奥地への地域開発は、観光開発を目的とするものが多くなり、自然公園区域を通過する場合に、自然破壊に反対する自然保護運動を招いた。
 南アルプス国立公園の林道開設における自然保護運動の経験から、30度以上の急傾斜の山岳地域の大規模な道路開設は必然的に山地崩壊させることになる。道幅を狭め、トンネル、橋を多用して、斜面の切取面を縮小することが必要であった。しかし、予算不足のもとで、崩壊地を拡大する工事が進行した。現在でも、運行する登山バスの林道管理は、落石の除去と災害の危険が隣接している。しかも、林道周辺の森林を林業的に活用するものではない。全く、登山バスに特化して利用されている。上高地へのバス運行と共通している。
 以上の南アルプス林道のケースは、現代の林業における林道の必要とは関係ない問題であろうか。林業にとって必要な林道、作業道は、林地に対する林道延長密度を基準にしている。ヘクタール当たり100mの林道は、林地の中央を貫く場合、林道の両側に50mの範囲が利用できることになる。1万haの林地には、1000kmの林道が必要である。しかし、もっと、林道密度は低い数字で開設されるにしても、数百kmに及ぶことになる。およそ2500万haの森林面積の内の40%に林道網を建設すれば、数十万kmとなる。10年計画で、1年間に全国で数万kmの林道建設となる。森林・林業白書で平成18年度の林道建設は、民有林、国有林合わせて、6百数十キロに達する。しかし、求められる林道距離の百分の1程度ということになる。
 一方で、どれだけ、地形に即した工事ができるのであろうか。また、その林道が有効に利用されて、林業経営の基盤とされるのであろうか。開設された林道の維持管理も開設距離の増大分だけ負担が大きくなる。林道開設箇所は林業経営を管理し、林道を活用しながら、維持管理する必要があるといえる。林道の管理が不十分なために、荒廃した箇所を見かけることがるが、利用がされなくなったことによるのであろう。

森林利用と林道 歩道と林道の両立
 伐出作業だけでなく林道が、生活道路、山地の森林利用を誘導する場合があることは確かである。林道の周囲の森林が鑑賞されるような場合は、林道は遊歩道の役割を果たす。逆に、公園内に遊歩道を通して、その遊歩道を森林管理のために利用すれば、林道の機能を果たすことになる。森林管理によって森林鑑賞に適した森林が形成されれば、林道と遊歩道とは兼用のものである。そのため、林道を遊歩道の条件に適合させることも必要となる。自動車の通行と歩行者の通行との目的の相違もあり、道路空間、通行速度の調整が必要である。
 以前、農村の森林利用の上で、山への歩道や踏みわけ道は縦横につけられていた。また、裸地となるほどに利用されていた山地は、道の必要も無いほどであった。それが、エネルギー革命と機械化、化学肥料などで山地の利用は戦後、急速に衰退し、山道は藪の中に隠され、消滅したのであろう。山に歩道をつけようとしたことがあるが、新たにつけなくても、自然に昔の道らしき歩きやすい道が見つかってくることを経験した。後で聞くと、炭焼きの人々が入っていた山だという。また、地元の人と道をつけようとした時、地元の人は、尾根、山腹、谷へと下る道をいとも簡単に見つけることができた。小さな時からの山を歩く体験があったからであろう。また、けもの道があり、人の歩く道とも重なることがある。森林を切り開くことは無く、林間の道となることが多い。
 林道は、自動車の通行のために土木工事で作られたものである。ブルドーザーが入り、山腹を切り開いてできていく。岩などの障壁はダイナマイトで爆破される。広い道幅、急勾配の切り土面で、地形に沿って山腹を蛇行する。自動車が上っていく坂の勾配は、10%程度で、急勾配は避けなくてはならず、車の通行のための道幅、すれ違いの退避場所も確保しなくてはならない。
 この車道の条件と歩道の条件の歩み寄りが、両立の可能性となる。車道の歩道としての好条件は、山腹を蛇行する緩い勾配、ゆとりある道幅である。しかし、緩い勾配は斜面で高い場所に移動する距離が増大することになり、道幅の広さは、切り土面を大きくし、森林を両側に分断することになる。樹冠が5mの木の森林であれば、林道の幅は樹冠よりも小さくなければ、道の両側の木の樹冠で道が被われなくなる。