森林風致 アカマツ林の盛衰

 既に多くの人が述べていることであるが、アカマツ林は松枯れ病のために衰退している。伊那谷では最近になって上伊那でアカマツの枯死が目に付くようになり、その対策が講じられるようになった。しかし、アカマツの間伐が行われることが少なかったために、アカマツが過密となり、共倒れ型で全滅して、コナラ林などの落葉広葉樹林へと遷移が進んでいるところも多く、また、残っているアカマツ林も過密で、間伐しても手遅れな状態である場合が多い。
 そんな状態で、松枯れ病の蔓延は一挙に進む可能性が大きいように思われる。林木生理と昆虫の専門家によって、松枯れ病の仕組みは明らかにされているが、その防護の対策は非常な負担がかかり、広大な区域でアカマツ林の持続は困難であるようである。
 以前、隠岐ノ島に行った時、島中累々としたクロマツの枯死木の林立に、驚いたことがある。1〜2年の内に枯死が進行してしまったそうで、名所を飾った老松も枯死してしまったそうである。その間を放牧の黒牛が草を食べ、広々して、海岸までの草原が広がっていた。戦後、林業を期待して植林された森林であったそうだが、その期待も裏切られてしまった。そのような劇的な変化が、伊那谷アカマツ林で起こるのかと思うと大変心配である。
 生駒の山地は、四十数年前に見たとき、戦後になって伸び始めたアカマツが、やっと森林を形成し始めた状態であった。しかし、現在、アカマツ林の枯死、朽ちた倒木が目に付き、残ったアカマツ群がわずかな箇所に見られる状態である。多くの場所でコナラなどの広葉樹林となり、さらに下層にカシ類あるいはヤブツバキなどが点在す状態となっている。一方、アカマツの稚樹、幼齢木の群生はあちこちの空き地に見られるのである。このようにして照葉樹林へと遷移が進むのかと感慨深いものがある。結局、アカマツの美林は成立しないままに、カシの照葉樹林へと移行するのであろうか。こうした森林の変化が、はるかに広く西日本全体に進行し、さらに広がっていることを、何度も考えてきた。
 アカマツの2百年生以上ともなる巨木は圧倒的であり、かつ、活力に富んでいる。その活力が感じられなくなった時には、もう、アカマツは寿命が来ているのであり、潔く枯れていく。こうした高齢林も松枯れ病の侵出で寿命を早めて伐採されることも必要となった。