風致と風景 上信越高原のイメージ

 上信越高原の全体イメージは、軽井沢と浅間山 草津温泉白根山志賀高原妙高山や戸隠、谷川岳などの地区を包含した国立公園区域からは浮かんでこない。また、大雪山についで2番目の広大な面積となっているが、シンボル的な山などがなく、分散したイメージとなり、一望されるような眺望も得られない。しかし、地域として考えるなら、自然と住民生活、休養利用が関連しあう有機的な環境と理解され、地域制国立公園の性格を最も体現しているといえる。
 南から草津温泉を中心に白根山から浅間山までの山地が連続し、その山地をC型に千曲川信濃川の流域が取り囲んでいる。流域を隔てて戸隠、妙高山がある。志賀高原から北東に苗場山から谷川岳まで連続した区域となっている。全体で弧を描いて利根川源流域を囲んでいる。いくつかの火山が山地の骨格を作り、火山と台地、山裾の景観を構成している。台地は湖水や湿原を含んでおり、各所に火山に由来する温泉を散在させている。
 夏期の冷涼な気候を求めて軽井沢に避暑地としての別荘地帯ができて、火山の裾野が高原のに変わり、また、ハイキングなどの利用が盛んになってきた。また、冬は豪雪の山地であり、志賀高原などでスキーが行われるようになって、山小屋なども作られ、山地、台地を利用する高原が生まれた。佐久から菅平などに寒冷地の畑作物として、洋菜が導入され、戦後、高原野菜の農地が広がった。高原野菜の生産地でスキー場が開設され、民宿が開始されたのが菅平である。夏のハイキング地、冬のスキー場が上信越高原各所に生まれ、別荘地やペンションの施設地も作られた。上信越地域を、夏の冷涼さと冬の雪を生かした休養地が散在する高原地域と言ってよいであろう。北東端の谷川岳は登山に利用され、山岳地域としての特徴を持っている。
 上信越高原の景観は、自然の地形と植生に加えて、人為による土地利用が重要な要因となっている。低地は河川に沿って農村地域となっており、その広がりの中に都市や町が散在している。山地の山すその農村集落は、山地を流域の水源として利用するとともに。山林資源を採取、育成して利用し、共有林、個人有林として所有した。奥地、山地上部の国有林では林業経営が行われ、カラマツなどの人工林が作られた。また、高原台地上には、放牧地として利用される草原が作られた。地域共有の財産区有林などが、スキー場、別荘地などに開発されることが多かった。自然の植生景観として湿原の草原と天然林があり、人工的な景観として、放牧地の草原、高原野菜の農地、人工林があって、奥地には自然的景観が多くの比重を占め、山麓から人工的な景観の比重が大きく占めて、入り組んでおり、多様な変化に富む景観を構成しているといえるであろう。
 住民生活の上で信仰や休養の場として、神社や温泉地が作られ、山地の中にまで入り込んで、自然環境と結びついて場所が見られる。また、山間地の農地によって集落も形成されており、山奥の集落は厳しい自然環境の中で秘境的な場所をうみだしている場合がある。低地の温泉地は施設が過密となり、規模が拡大して温泉市街を形成している場所も生まれた。
 国立公園利用者は、交通網と施設整備と環境によって、集中する季節と場所が展開している。観光関係の企業が施設を供給し、環境は自然条件、土地利用、環境保全が関係して提供される。冬のスキー客は、高原各地に散在するスキー場を利用する。夏のハイキング客は散策に草原、湿原、湖水、樹林などで構成された高原地域を利用する。温泉客は各所の温泉地、温泉を利用し、滞在することが多いであろう。個人、団体の観光客は、自家用車やバスで旅行しながら、自然の名所、歴史的な名所、観光ポイントを巡るだろう。また、別荘住人は避暑に別荘地に滞在しているだろう。スキー客と温泉、観光客と温泉とも関連するから、温泉客はスキー客、観光客と重複することも多いだろう。このような多様な休養客にとって、高原休養地域と言える。
 施設として、温泉地、スキー場、ハイキング地、観光ルートと観光ポイント、別荘地が、渓谷と山地、台地の地形とそれを被覆する森林と草原、岩石景観の中に散在し、交通路で連絡している。観光施設とその資源となる景観との関係は、観光企業が景観が保全することが理にかなっている。田中正大「日本の自然公園」には十和田湖などで戦前に地元で保勝会などができて景観保全に寄与したことが記されている。上信越高原にも共有林を地元で開発して、施設営業と景観保全財産区によって一体となっている場合が見られる。草原や森林の景観が、放牧や林業によって維持されている区域では、産業の衰退が景観を改変することになる。景観維持のために、産業の持続が図られることがあるのだろうか?
 国立公園行政は現場では管理員レンジャーが担っている。広い区域を僅かな人数で担当している。国立公園区域における景観持続は重要な仕事である。国民の公園としては、国民の1人1人として、利用者を尊重し、利用者の自然体験を充足させることによって、景観保全の理想を持つ、国立公園行政への支持を得ていく必要がある。利用者の動向を通じて、観光企業からの支持を確保し、保全のための活動を推進していく必要がある。人数の問題以前に国立公園の理想、優れた景観の持続と自然体験の充足への熱意が問題であろう。困難な時代的課題を乗り越え、国立公園の景観、環境を永続させることが必要である。