森林風致 置戸試験林

 北海道置戸には照査法の試験林がある。昭和30年に道有林内の79ヘクタールに設置されたもので、岡崎先生の指導を仰いだということである。昭和42年度、岡崎先生を代表として試験研究「森林の風致的施業に関する研究」が行われることになり、昭和43年10月に1週間置戸に滞在して森林構造の調査を歩道沿いに行なったことがあった。青柳氏の森林技術に掲載された寄稿によれば、開設して50年間8年毎の伐採を繰り返して6回目の伐採を完了したとあるから、私の調査していた森林は1回目の伐採を終えた時期であったということになる。当時、森林風致の研究に何故、照査法の試験林を選んだのか理解できなかったが、その後、森林美学における美と経済の調和が「恒続林」に帰結するものであり、照査法は森林の恒続状態を持続させる方法論であることがわかり、それを実際に現実のものとした、岡崎先生や道有林の担当の方々のご努力に敬意を感じている。
 調査は中心の道を50mごとを1区間として16の区間、800mを調査対象として、路線沿いに両側5mづつで林木配置と樹冠投影図を作成し、区点から両側50mづつのトランセクトをとって、森林の断面を描いくものであった。こうした路線を歩行する人が各区点にどのような評価を行うかの試験を行うものであった。その結果、林業関係者13人と造園関係者6人の評価はいくつかの点で相違していることが明らかになった。
 照査法試験林は未だ整備中の段階であったが、天然林に第一段階の伐採を行い、目的とする高い成長量への森林状態への片鱗が生まれていた。択伐による収穫と更新によって持続する森林ではあったが、当時は小区画の植林地が見られ、断続的な森林の状態を示していた。天然林に見られる、いわゆる暴れ木などを整理し、その跡地の更新のために植林したのであろうか。かえって区間ごとの林相の変化が大きく、路線沿いの変化において空間的な多様性を示していたといえる。一方、未だ、択伐林の安定した林相は実現していなかったと思う。天然林は持続においては安定しているが、成長量においては過熟林と言われ、ほとんど成長と消費で差し引き、成長量はゼロといわれる。こうした天然林を成長量の大きい択伐林に転換する途上の森林であったのであろう。
 青柳氏の寄稿で50年にして照査法による収穫量の規制によって恒続林としての択伐林が完成してきているようである。寄稿によれば、択伐における伐採木の選木作業が、現場の人の技術的熟練によるものであり、樹冠配置と上下の林木構成のバランスを考えた、絶妙なものであることが、恒続択伐林を生み出したことを指摘している。メーラーの目指した経済と美の調和としての恒続林と評価できるものと想像する。経営的にも成立しており、この置戸モデルが汎用性の可能性が大きいことを示唆している。
 岡崎先生の目指した森林風致の効果の検証は、未完成に終わっているが、森林の成熟は照査法の有効性を証明している。森林風致実現のための風致施業技術の体系化は、未だ今後の大きな課題であるが、それに向かう、基礎的な実績と大きな目標を岡崎先生の試験研究は提示していたといえる。