樹林の風景

はじめに
 森林は樹木が集合し、土地を含む空間を構成している。森林の定義に林学者も苦労している。樹林の定義も同じように困難となるかも知れないが、一応、森林の中でも森林を構成している個々の樹木が見える小規模な森林、または、大規模な森林を構成している林分単位となる小規模森林を指すとしておこう。言葉から樹が集合して林を構成するとなり、樹を強調している。

樹冠
 森は樹で構成されているが、樹が群れとなっており、群れの様子にも場所によって変化している。これを、ブナとヒバの天然林に見出して明らかにしたのが、松川氏であり、その構成の単位を林冠群と名づけている。また、林床の状態も場所で異なり、樹冠群と林床群の関係から森林更新の進行を推定している。複雑な天然林も森林更新が構造的進行しており、この樹冠群は成長段階の相違に由来していることを明らかにしている。
 今日、森林の単位としてのパッチとそのパッチを生じさせた、樹木の枯損などで生じたギャップとして、森林動態が明らかにされてきているのであろう。こうした森林動態の単位となる樹林は、人工林にも樹木間の競争があり、優勢、劣勢の差が生じることによって、群構成が生じてくることがあり、それを利用して森林構造を誘導する方法として質的間伐が行われたのではないかと考える。松川氏は間伐法で著名となった寺崎氏に樹冠群に関して互いに確認したことを記している。間伐は西欧の国々で、行われ、林学者が探究する課題であったことを寺崎氏は明らかにしている。
 木立という表現があるが、森とはいえない樹木の集合した様子だろう。単木では木立ではないから、2本以上、数本で構成された樹林を指すのであろうか。単木、木立、樹林、森林のそれぞれの風景があるが、森林から分離した構成部分の姿であり、森林には単木、木立、樹林を構造的に包含しているのではないか。少なくとも林分スケールの構成の点からはそれが言えそうである。森林生態学の成果を学ぶ必要がある。

樹林と木立
 木立は数本の樹木の群といえるのであろうが、その数本の樹木が一つの大きな樹冠を構成しているといえるのではないだろうか。この大きな樹冠をそれぞれの樹木の樹冠は部分的覆っている。これに対して、林は構成する樹木の数が多く、連続した樹冠を構成しても、単木の大きな樹冠のように見えない。いくのもの木立n樹冠が分かれて集合しているように見える。だから、木立の集合を樹林と言ってよいのではないだろうか。木立が単位となって、集合して樹林を構成する様子は、樹木が成長し、樹木に優劣が明確となっていくと、優勢な樹木の樹冠に劣勢な樹の樹冠が併合していく。

人工林の樹冠
 均等な配置で植林された人工林は、個々の樹が均等に生長すれば、同じ大きさの樹冠で高さも同じになり、樹冠が接続するようになると、林冠が形成され、上空が閉鎖される。林冠を構成する単位となった樹冠は、それ以上大きくなることができず、成長は樹高の伸長に集中する。樹冠が高くなり、下枝も枯れ上がると、幹の林立する空隙が広がる。樹高に対して樹冠の幅が縦横ともに小規模であることは、幹の肥大成長を阻害し、幹が樹冠を重力的に支えらなくなる。
 均質な人工林では樹冠の密度調節が必要となる。

クヌギの樹林はいくつかの木立の集合のように見える。


ヒノキの樹林では、樹冠が円錐形で直立しているが、樹高の大小で木立が見られる。