南アルプスの山村景観と風景

はじめに
 リニア中央新幹線の直線ルートが経済効果から国土交通省交通政策審議議会中央新幹線小委員会で確定してことが10月21日の新聞で報じられた。路線は甲府から飯田まで南アルプスを貫くことになる。経済が停滞し、国債赤字解消のために公共事業も縮小する現在、この事業は、JR東海により2027年の開業を目指し、5.5兆円をかけて行われるという。
 東京−大阪間の第二新幹線の必要性は、明確にはわからないが、批判の声は少ないようである。受け入れ地域は、地域の経済効果を期待しているが、飛行機なみの速度での停車駅は、極力、少なくしなくては、その効果は少ない。地域にとっては、新幹線は通過するだけで、開発による自然破壊の影響だけを負担させられる可能性がある。南アルプスのある山村では、谷間の豊かな自然環境を破壊し、狭小な居住域を通過することが心配されている。
 山村風景は厳しい自然環境の中に開かれた生活域であり、変わらない自然条件によって、自然条件に適合した必然の美しさを持っている。しかし、外部の経済の影響が及ぶにつれ、厳しい自然条件は生活に不利なものとして、山村の衰退が進行した。災害による被害と復旧のための建設事業は、山村の衰退と住民の現金収入の増加が平行するものであった。やがて、建設事業の完了とともに一層の経済的な沈滞が進行したが、住民は山村生活を見直すことにもなったといえる。この落ち着きを取り戻した山村にとって、新幹線の通過による建設事業の到来は、心配の種以外の何者でもないことだろう。