森林の五感の知覚

 近くの森林は農地、住宅地、とともに日々の散歩の場所である。住居からの散歩は行く場所が限られてくる。同じ場所を散歩しても、天候や四季折々に変化があり、出会う人も相違して、行くたびに新鮮な体験が生じる。住宅地、農地、森林の順に、季節による環境変化の大きさ、きめ細かさが大きく、人に出会う割合は少なくなる。
 住居や市街の人工の環境で生活が成り立っている住人にとって、森林環境への接触は、不必要ともいえるが、人工を脱して、自然を体験する特別の機会であることを実感する。自然の時間は日常の時間を忘れさせる作用がある。
 それが、憩いや安らぎであるかは、人によって相違するであろうし、日常生活の疲労を回復させる癒しの作用があるとは言えない。もっと根源的な意味があるように思うのである。突然の激しい雨に襲われることがある。雷鳴に恐怖を覚え、森林から早く抜け出したいと思い、こんな時に来たことを後悔するかもしれない。しかし、こうした体験は、子供のことの自然への驚きの感覚で体験したことを思い出さないだろうか?それは原始の人類も身を以て体験していたことに気づかないだろうか?驚愕から覚めると、平穏な森林がいかに豊かさをもっているか、その豊かさを享受する知性が大切かを実感する。