風致を造園する方法論Ⅰ(概念)

 人は生活するために住居が必要である。原初的に安全な住居は洞窟であった。閉鎖され、内部空間と外部へは入口だけであるような洞窟は確かに安全であったに違いない。しかし、自然環境の中で洞窟が存在するのは崖壁のある場所であるから、めったに存在するものではない。これはかって西山先生の講義を聞いた疑問だった。確かに人類は洞窟に代わる住居として建築を必要としたことは理解できる。
 近代の工業文明で都市生活が展開し、市民の立場が確立してくると、自然環境、田園環境から隔絶した都市生活に庭園の自然の価値を認識するようになった。これに対応した造園家がラウドンであったことを中村先生が取り上げている。そして、市民階層の庭園デザインとして表現したのがジャキール女史であった。モリスのアーツ&クラフツ運動を端緒とする機能主義は、庭園における戸外室の考えに到達したが、日本には田村先生によって造園学の基礎として西洋庭園、近代庭園の様式が導入された。かくして、こうした先人の大きな骨格の上に森林に接して得られる風致を庭園空間に展開する方法論を考察するものである。
 市民生活に即応した生活スタイルを成立させるために、集合的な用地としての住宅地が生み出され、区画された敷地毎に居住者は建築ー住宅と造園ー庭園を計画する。居住の中心として住宅の内部に対して庭園は外部となり、戸内ー戸外の関係となるが、戸外は庭園からさらに敷地外の隣接地に連続する。生活スタイルは居住者と隣接の住民との社会関係のもとで、敷地内の戸内ー戸外の空間的関係によって成立するといえる。建築の様式が多様であるように、庭園の様式の様式も多様であり、両者は歴史的な相互関係で連結している。また、こうした様式は、社会階層の生活スタイルに即応しているが、外部空間の条件としての自然環境にも即応している。住民ごとにこうした判断が行なわれ、建築、造園の様式の選択が行なわれる。しかし、人々は求める生活スタイルを確保し、日々の生活の満足が得られているのだろうか。多様な住宅が混在する住宅地の姿は、個性的な生活スタイルを表しているが、時代、階層の生活構造、造成された宅地の画一性による共通部分に対応する統一された住宅地の景観は見出されず、共同の景観形成のために住民協定を必要とするのである。
 近代的な都市生活に欠乏し、求められた自然との接触を実現する上で、自然環境を庭園に再現し、戸内と敷地外部とに連続を生み出し、生活スタイルをストリーに表現し、個性的であることが、市民生活に普遍性を持ち、統一した景観、調和した景観を生み出そうとすることを、ここでは「風致を造園する方法論」と定義しておく。