風致を造園する方法論Ⅱ(住宅庭)

 人口、世帯の数だけの住宅があり、あるいは人口、世帯数以上の住宅がある(住宅統計はあとで調べるとして)。そうした住宅を居住形式として社会的、階層的な構造が歴史的に展開した概念図を示したのが西山卯三であった。その俯瞰のもとには近代的な戸建住宅は、中産階級の増大に伴うものであり、大正、昭和初期の郊外住宅地開発は中産階級の居住形式に対応するものだったと考えられる。当時の生活改善運動、田園都市の構想の影響などがこれに反映し、住宅需要に即応して電鉄資本による住宅地開発が展開していった。郊外住宅地開発の過程はいくつかの著作を見出す。
 こうした住宅に対する庭園はどのように考えられたのだろうか、以前より興味を持つところである。こうした社会的需要によって大都市の郊外発展と中産階級の住宅地が形成され、一定の居住形式とともに庭園の形態が形成されたと考えられる。そして、戦後に継続するともに拡大再生産される住宅地開発が進展したといえる。今日、人口減少に向かう中で住宅地開発は停滞し、あるいは既存住宅地の老朽化が問題となりつつある。こうした中で住宅のリフォーム、改築などが進展するだろうが、それは居住者にとって単なる改造ではなく、使い込まれた生活空間の個人的な進化があるといえるのではないかと考える。そうした進化のもとに一般化される居住様式の成立を見出すことができると推察するのである。
 住宅敷地における建物の内外の空間の利用における様式とそれを反映した建物と庭の形態、その様式のもとでの改善としての創造的なデザインが建築家、造園家の課題となるだろう。創造的な造園の目標として居住様式に自然の豊かさを導入し、生活における人工と自然の調和を深める居住様式を展開させ、定着させていくことがあるといえる。これを表題の「風致を造園する方法論」と表現し、住宅庭で考察していこうとする。
 前置きが長くなってしまったが、本題に入ろう。昭和5年実用庭園叢書の一冊として田村は「現代庭園の設計」を著している。そこには現代庭園は中小住宅に対応し、狭小な面積に作られることで、日常生活上、切実な要求を満足せしめるものであることを述べている。その結果、実用的な構造に立脚して、用途と美の一致として成立する機能主義に合致するものとしている。庭園は青空を天井とする戸外室と表現し、そこで自然を享有するとしている。庭園の機能として、環境機能、戸内と戸外、敷地外との連絡機能、戸外室、開口部からの眺め機能、休養活動の場、園芸活動と自然との接触の場、都市環境・近隣環境に対する社会的効用の8つを上げている。庭園の様式は伝統的な日本式、洋式に分けてあげ、趣味として役立つが、現在の庭に求められる様式は現代式として、現代の要求に合致した庭の様式を必要とするとしている。以上の田村の主張は、ここでの考察に合致しており、提案する方法論の前提となるものである。それにしても今から67年前の著作に基本的な造園の考えは著されているのである。はるかな過去の業績に立ち返り、現代の造園を考察するのであるが、逆に田村の思考ははるかな将来を洞察していたといえる。