地方都市の居住環境改善

 居住環境の改善は近代の大きな社会問題であった。ユートピア思想から田園都市、近隣住区論、ニュータウンの考えは欧米から世界各国へと影響を及ぼし、日本も先進的な居住環境改善の考え(人間的環境)を取り入れた。工業文明の進展に伴う社会の構造変化と人口増加に即応して、住宅建設や住宅地開発は進展した。しかし、現在は人口増加は減少に転じようとしており、高齢化社会への移行とともに、急激な人口減少が予測されている。特に地方の人口減少は深刻な事態を招いていくにちがいない。こうした中で居住環境の改善はいかなる方向を取るべきなのか、新たな課題となってきている。こうした事態を目前とする中でこれまでの人間環境への理想がいかに継承されて適用できるかが問題となるのではないだろうか。
 居住環境の問題は、建築分野が中心で取り扱わていると考え、私の知識は少ないが、ある市の住生活基本計画の策定委員会に参画することになった。この策定は平成18年度に制定された「住生活基本法」に基づくものである。既に平成11年に住宅マスタープランが作られているが、広域合併による事情変化が、計画策定の理由とされている。国、県では計画策定が義務付けられており、長野県では平成18年から27年までの基本計画の策定を見ている。そこでは、人口減少、高齢化のもとで、住宅は充足している一方、空家の増加が生じており、住宅は耐震構造の安全性を確保し、高齢主向け住宅、環境配慮が必要となり、市街地、山村地域の空洞化による人口減少、高齢化が問題となってきている。これらの問題解決の方策として基本計画、施策展開、達成目標が掲げられている。市の計画はより具体性を持ったものになるだろうが、課題や計画の構成には大差がないものと考える。
 計画検討に当たって、居住環境を実感によって考えてみよう。高齢者は市街地に近接して居住し、家屋は老朽化しており、一方、若い世代は郊外に新しい住宅を建設して居住している傾向があるのではないか。高齢者の老朽住宅は資金の点で建替えは困難だろう。若い人々の郊外住宅も長い年月の経過を考えると問題が生じるのではないか。そうすれば市街地のマンションへの居住は今後の高齢者に有利といえるのかもしれない。これらの動向は関連した動態としてとらえるべきだと感じる。単に住宅更新の問題に止まらず、そこに生活する人の居住環境機能を考えるべきだろう。また、都市、農村、山村の連携する人口移動をも含める必要がある。そして計画目標としての理想を設定すべきだろう。