建築の発想

 森林風致計画研究所理事を含む出品によるコンペへの入選という大変、うれしい知らせがあり、選外佳作の賞状を受け取った。出品の主体はスタジオ・アウラの吉田さん、保科さんであるが、清水さんとともに協力して生まれた構想作品であり、F先生の強力なアイディアが支えとなっている。建築家と建築研究者、森林風致研究者がアイディアを出し合ってできたといえる。
 以前に西山先生の講義を聴いたことがある。建築の特性は空間の論理に従うという言葉を記憶している。空間の論理とはある空間の占めている範囲に、別の空間が重なることはないということだったと思うが、物理学の定理にもそのような考えがあったように思うが定かでない。建築に対して、造園は戸外を対象とする。戸外は戸内の限定された空間に対して、それ以外の無限定な空間の広がりを表わす。戸外の庭は敷地の区域に限定されるが、しかし、上空は無限定であり、地下も無限定である。光が射し込み、風が吹きぬけ、水は地下に浸み込んでゆく。地表には植物が生育し、鳥や昆虫が侵入してくる。同時に埃や騒音なども影響を及ぼす。建築は外部の影響を遮断し、人の安全な住処としての覆い(シェルター)を作ることによって、戸外から戸内を生み出したといえる。
 戸内空間は人間の思念に応じて創造される建築へと展開していることが、今回のコンペへの協力で感じ取れた。庭園も囲まれた空間であることによって、楽園の思念を現実化したものといえるが、建築は現実の生活空間として創造されていくものと理解された。しかし、思念の自由さに環境との齟齬が生じる可能性もある。そうした場合には、生活を制約する建築に転化する恐れもある。建築は生活の創造と破壊の岐路に立って発想されているのかもしれない。造園は戸外の無限定な空間の特性に適応して創造性への冒険を放棄し、調和を求めているといえるのではないか。多くの造園には、擬似的自然を創出して、人と自然環境との関係の再生が可能なものとする期待があるように感じられる。しかし、その擬似的自然によって、自然との関係が遮断されることを注意しなくてはならない。建築の創造性が、自然そのものと接合して展開するならば、造園は建築の一部に包含されたものとなるだろう。思念と建築によって現実化された生活との関係、戸内と戸外の融合、戸外の自然環境の有機的関係を構成することによって、人間が自然に適応しながら創造的展開を遂げていく未来空間が見出せるのではないだろうか。