風景の主体 広域連合

 上伊那広域連合ごみ処理基本計画推進委員会による検討が9回の会議の結果、報告書としてまとまってきた。たった9ページの報告書であるが、公開の委員会によって民主的な議事のもとにまとめられたといえる。私は伊那市ごみ処理中間施設用地選定委員会の立場で出席していたが、広域連合で検討されたゴミ処理基本計画に関して、3点で容認できたことを発言した。1つは圏域内で完結したゴミ処理を行い、圏域外には持ち出さないことである。次に市町村で進めるゴミ回収の体制でゴミの減量化と資源化をあらゆる方法で進める努力である。最後にごみ中間処理施設が進歩し、いくつかある機種をとっても環境基準を10倍以上のレベルでクリアしており、環境汚染の心配は極度に少なくなっていることである。以上の3点から、地域の広がりにゆとりがあり、用地選定の範囲が大きく、適切な選定が可能となる。
 上伊那広域連合は7市町村によって組織され、人口は19万人弱である。人口割合による定数の議員を各市町村議会議員の選挙によって選出し、広域連合議会が構成されている。この起源は昭和45年の広域市町村圏指定にあり、広域水道、情報センターなどの公共施設の集中的整備の必要から生まれてきた。昭和55年には広域市町村圏計画が策定され、各市町村の計画や行政施策を統括することも行われるようになった。今回のゴミ処理基本計画の検討は、各市町村の衛生自治会などの担当者を中心に住民代表、公募、専門家などの委員によって、公開によって進められ、これらの委員は住民生活の末端から広域連合の必要性を実感したことを感想として述べている。地域計画はドイツにおけるルール地域の環境問題への対処が自治体の広域組織を生み出したことに始ったことが、先行した事例として指摘されている。(祖田)そうした地域計画の萌芽が今回のゴミ処理の問題から感じられた。
 地球環境問題への取り組みの必要は、多くの人々に浸透してきており、ゴミ処理もゴミゼロを目指す運動まで広がり、減量化の方向は誰も否定しない。しかし、個々の家庭からいかに多くのゴミが生まれているか?一日1人平均1kgが出されるとのことであり、上伊那では600g余りと平均よりも低くなっているとのことである。以前はゴミのほとんどは家庭で焼却されたり、生ゴミは埋められたりしていた。焼却による有害物質や処理しきれないゴミの量で、それらのゴミは大量消費時代によってもたらされた。大量な商品と広大な流通組織が、地域住民を消費者へと巻き込んでいる。そして、ゴミ処理は消費者である住民の責任となっている。自由主義経済と地域生活とが矛盾してゴミ問題を生み出していると考えられないだろうか?
 近代国家の成立の過程で、封建体制から絶対王制が成立し、市民革命によって市民を主体とする近代国家が生まれたとされる。絶対王制の成立は、市民階級の勃興によって自由な商業活動を要求が拡大し、封建体制における地方の領主に分断された状態が不都合となり、中央集権的な王権によって封建的な体制を抑制し、国家の統合のもとに市民階級の要求に応えたことによるものといえた。しかし、市民階級のさらなる勃興は、自由主義経済の展開に止まらず、社会制度としての自由と独立を要求するにいたって、革命によって社会変革がなされた。個人の独立と自由の原則は、社会制度として民主主義として示されている。自由主義経済も、社会制度の原則によって展開するものであるが、経済における企業の自由は、生活における居住地域の自治の範囲を超えており、中央集権的な国家の範囲に展開している。あるいは国際的な経済関係に広がっている。
 上からの行政組織として、国−都道府県−市町村への下降する組織が成立している。これを自治組織として下からの積み上げとする組織に転換することが起こってきていると考えられる。経済の低迷が国家財政を制限し、下降する地方財政援助の体制を困難にしているからである。自治体自体も経済的危機に瀕して合併や住民ボランティアへの重点を必要としている。伊那市は昨年に高遠町と長谷村を合併して上伊那広域連合の中で圧倒的な区域に広がる自治体となった。そして、伊那市市長が広域連合長を兼ねているのである。いずれ、上伊那広域圏が一つとなって自治の単位となる可能性もある。伊那市の中には旧市町村は地区として下部組織を形成し、一定の独立性をもった自治を行っている。
 数年前より道州制の導入が国の議論となっている。国は中央集権から道州制を基盤とする連邦国家となるのであろうか?また、市町村の体制は広域連合の生活圏における自治組織へと移行するのであろうか。こうした地方組織の動向の中で都道府県の組織はどのように移行していくのであろうか?