森林風致 植物季節

 植物季節フェノロジーという専門分野があることを知ったのは、渡辺先生からである。志賀高原の研究施設に宿舎が附属し、その宿舎がスキーなどの宿泊にも利用できた。そこに渡辺先生の研究室があった。部屋に案内されて、写真機が窓に向かって固定されており、対面した山腹の風景を1日の決められた時刻に撮影するようになっているとのことである。そうした説明を聞いて以来の仲である。先日、会った時に、その部屋から撮った写真を解析した短報をいただいた。1986-2004に至る写真データからダケカンバの開葉・黄葉の変動を調べ、温暖化の影響を考察するものであった。森林変化の長期的な観察が新たな知見となることに改めて感心し、渡辺先生の持続的な研究に敬意を抱いている。謝辞に管理人であり宿舎の世話をしてご夫婦が長年の気象観測を担当されていることを上げており、頭の下がる思いである。
 日常的な風景に季節変化は付随しているが、陽光の傾きは気温に影響し、気温によって植物の季節変化が生まれるとされている。周知の事である大気の気温と湿度の関係の全貌は散漫な観察で理解できるわけでないが、陽光が大気の状態を通して景観が知覚され、その大気の変化が絶妙な風景を作り出す。同時に、大気は、人に温度、風を体感させ、植物に季節変化をもたらす。林内は林冠と林縁が林外の陽光と大気に媒介し、森林内外の二重の複雑さで林内環境を特徴づける。林冠は林木の幹に連結し、地下の根茎によって支えられている。
 冬の冷たい大気は、0度を境にして大きく変わるようである。大気中の水分の凍結は、大気を混濁させる。水分が湿度として大気に混入している状態で大気は潤いと透明感を持つが、過剰な湿度は微小な水滴となって空気を混濁させる。乾燥した大気は透明となり、風景を鮮明とする。日夜で変わる地上と上空の寒暖の変動が、大気を移動させ、陽光と共に時刻毎の変化を作り出す。厳しい大気の持続する冬に、針葉樹は硬い葉で身を守り、広葉樹は落葉し、草は地下で休息している。
 春、夏、秋となって冬となる季節循環、植物にとって冬は耐え忍ぶ季節であり、春、夏は、植物の生命の謳歌する季節、秋は冬に備えて蓄える季節となるのだろう。季節感は、直接的に気候と気象の変化が作用するが、植物の季節変化と連動して、生命感としての季節感となるのではないだろうか?