風景の要因 重力の作用

 容量の大きさと質量の大きさを重いと感じる。容器の大きさは空間の広がりを示し、そこに物質が満たされた時に重量が生じる。こんな日常の重さを、力学的にとらえて、万有引力の法則として体系づけたニュートンはなんと偉大なのであろう。体系づけられた力学は、風景の大きな要因として水平、垂直の骨格を形成している。地球の表面は地表と水面であり、固体―鉱物と液体―水によって構成されている。広大な陸地と海、陸地の骨格となる山岳は高く、険しく、海は水平線の広がりを持っている。山岳が風化し、水の落下、流れによって浸食、流下して、土砂が堆積した所に、平野ができる。また、大気は浮力となり、気流となって雲を支えている。水平と垂直が軸となって空間が構成され、風景の奥行きが生じる。四角の立方体の空間が、水平と垂直の軸に位置することによって、重力の安定が生じている。風景の奥行きと物体の配置は、重力の作用に合致して安定しているといえる。
 地上で高く生育する植物が樹木である。根を地表に張って幹を支え、幹は枝を四方に伸ばしてバランスを保つ、針葉樹は円錐に、広葉樹は逆円錐で樹形を作る。高く樹冠を保つことによって、他の植物、樹木に対して、陽光を優先して得ることが出来る。森の骨格はこれらの樹木が群となって構成する。すなわち、垂直に林立する幹、幹から伸びた枝に支えられた樹冠、幹は地面に沿って四方に根を張り、林床の基盤を形成している。床、側壁、天井の空間を樹木が森林に集合して作り出した空間が林内空間である。高い樹木は空間の上方への奥行きとなり、幹の疎密や太さ、枝、下層の低木が、側方の壁に奥行きと囲繞をもたらす。林床はこれらの林木の幹を支えながら、地面の広がりや植生による肌触りを感じさせる。
 人工的景観を構成する立体が建築である。建築空間は意図的に水平と垂直によって構成される。人間の行動空間に合致して、床の水平を確保し、覆いとしての天井、屋根を支えるための垂直の柱が必要であり、柱に沿って壁面を作って、閉鎖させる。建築が水平と垂直の6面の内部空間を生み出す結果、外観の立方体も垂直、水平の軸をもって構成される。垂直に立方体を積み重ねて、階数を増していくと、垂直性が強調される。平面に広がれば、水平さが強調される。階数が増し、高層化するにつれて、外観の立方体の、水平に対する均衡が失われ、不安定さを感じさせる。高く、広い垂直な外壁は、自然の断崖と同じように、落下の危険と壁の圧迫感を生じさせる。一方、競い合う高層建築は、人工の技術の高さを示すとともに、土地を最小にして空間を最大に利用する経済性を現すのかもしれない。高層の上階に立つ人は、地上から遠ざかり、上空から地上の広がりをはるかに俯瞰する眺めを得る。
 山岳の高く、急峻な地形は、地殻につながる鉱物によって作られており、山頂と稜線の突出と山腹の急傾斜をもたらす。垂直と水平の関係によって生じる傾斜は、一定ではなく場所により変化し、曲折している。重力は急傾斜に対して、崩壊をもたらし、崩壊した岩石、土礫は、下方に押し流されて堆積する。これらは、地質学、地形学の領域である。垂直に近い断崖は断層や海岸、河岸の浸食で作られる。こうした断崖が渓谷や海岸を構成する要素として、好まれる風景となり、名勝地となっている場合がある。また、断崖から落ちる滝に、人々は一層、注意を向けることが多い。