風致と風景 景観破壊 

 国立公園は日本を代表する景観の区域を指定し、保護するとともに、利用するものである。長野県には3箇所に国立公園があるが、県境の山岳地域である。長野県内の国立公園は山岳景観として特徴づけられるといえる。国立公園に準じる国定公園と県立公園も同様に山岳景観といえる。日本の自然公園は地域制の公園である点で、公園専用でない土地所有、土地利用、産業開発が公園区域内で認められてきた。自然公園として評価された景観が、こうした所有、利用、開発の要因から破壊されることが各地に生じてきた。また、逆に利用の衰退などによって景観の変化が生じることも問題となった。利用の変化は、自然環境を変化させ、景観の持続と公園利用に新たな問題を生じさせる。
 山岳景観を主とする自然公園の区域は、山地の比較的上部、あるいは奥地を範囲としている。山地全体が自然公園の区域ではない。しかし、区域外の自然環境は、自然公園区域に連続しており、下方から連続する、所有、利用、開発は、区域内以上に多く見られ、制限が少なくなるといえる。自然公園内も境界部はバッファとしての普通地域であることが多い。自然公園境界は境界線としても、制限としても不明瞭である場合が多いといえる。区域内の利用の転換による景観持続の困難とともに、保護による利用の制限が、区域外の利用の放棄による保護と同等の効果へと転換する可能性がある。また、区域内の計画的な公園利用と区域外の企業的な休養利用も区別し難い面がある。山地全域の総合的な地域計画が必要であったといえる。
 国立公園の設定において、景観が評価され、評価された景観が破壊され、保護と破壊の調整によって景観維持が図られるという過程は、田中正大「日本の自然公園」にいくつかの事例が示されている。長野県の特徴的な山岳景観では上高地が事例となっているが、他の多くの箇所で、開発が進展し、同時に景観破壊が行なわれた。開発による景観破壊とは、自然景観の人工化であり、新たな景観創造と受け取られた場合も多い。
 しかし、自然環境の多様な環境機能とその環境特性を表現する有機的な景観に対して、開発は一面的な利益あるいは環境機能の発揮を目的としており、人工的な施設によって景観の調和に破壊的な影響を与える。戦後、硫黄などの鉱物資源開発、電源開発のためのダム建設、木材資源のための森林開発、開発のための道路建設によって、自然環境が利用され、山地、渓谷、森林の景観が破壊され、人工化された。
 さらに、自然環境を利用して行われる休養利用が進展したが、安易なアクセスのための観光道路、ロープウェイ建設と利用者の集中化によって、環境を可変し、自然景観の破壊をもたらした。ゴルフ場、スキー場、別荘地などの施設的な環境の造成は、自然景観の破壊をもたらした。自然環境を利用する施設としては、極力、施設建設の節度ある開発が必要であったが、その限度が守られることは、ほとんどなかったといえる。
 未開発な状態で自然景観を持続する必要の認識が広まり、原生林、湿原などの環境が保護されたが、それまでに開発の手がくわえられた自然景観が、修復されたわけではない。