風致と風景 上信越高原の風致景観

 国立公園の管理計画の検討に当たり、風致景観という言葉が出てくる。風致的景観なのか、風致と景観なのか定かではない。風致的景観ならば、風景という言葉でよいと思うが、風致と景観を分けて使いたい理由があるのかもしれない。確かめてみる必要があるだろう。
 上信越高原の景観はどのように構成されているのであろうか、検討委員会の専門家がいうように、自然景観としては、浅間山白根山の活火山にが主要な景観要素であろう。地形的な骨格が植生に被覆され、森林地域を形成している。山すそは生活域に含まれ、各流域に分かれた山麓の地域の土地利用が行われている。山地の尾根部が、長野県と群馬県の県境をなして、大きく流域を二分している。長野県側は千曲川流域の一部をなし、群馬県側は草津温泉を中心に盆地状の流域をなしている。
 土地利用によって自然景観の変貌が生じる。長野県側でいえば、明治になって、浅間山麓にカラマツの植林が行われ、菅平ではジャガイモや野菜などの畑地生産地として開発が行なわれた。また、薪炭や農用のために共有林などとして管理され、放牧が行われると高原などとなったのであろう。
 急峻な地形や活火山の危険から利用されなかった区域に自然が残り、また、火山の条件は温泉を各所に湧出させている。温泉は古くから利用されていたが、新たな利用として浅間山の裾野の軽井沢に避暑地の利用が行われるようになった。戦後になって、別荘地開発が進展し、また、志賀高原などを中心にスキーの利用が発展し、菅平は民宿によるスキー場と夏期の体育合宿利用の場として開発が行なわれ、観光地域として発展した。
 概観であるが、以上のような過程で景観が形成され、観光の場としての景観特徴とともに、各地の風致が意識され、利用されることになったのであろう。各地区を構成する風致によって景観特徴を見るならば、上信越を概観する景観は見失われることになる。上記の景観形成の過程から、各地区の景観特徴が分岐していることを理解すれば、多岐の風致が上信越高原の風致景観として連関するのではないだろうか。国立公園管理計画における火山と特性による課題、植生の特徴による課題、景観の課題、観光地と利用の課題なども、各地区ごとの問題ではなく、全域の共通問題として国立公園の理念に照らして検討すべきであろう。