風景の主体 野生動物

 昨日、中央アルプス千畳敷に出没するニホンザルに関する集いがあった。NPO法人アルプスAYUDAが企画したもので、AYUDAは、登山ガイド組合を母体として自然保護に関心をもって作られた法人である。中ア・南アにおける自然保護、登山利用者への自然体験の啓発(インタープリテーション)と中学生の集団登山のガイドを通じての教育を活動目的としている。伊那谷住民による組織なので、地域の事情、人脈に詳しく、大人から子供までの交流を自然教育を通じて持っているようである。著名な動物写真家は子供の頃に野鳥がたまらなく好きであったこと、芸術家となった人も子供の頃の自然好きの話が出た。集いには親に伴われて子供が1人きていて、静かにしていたが、野鳥の観察会などに参加して野鳥好きな子であるとの話であった。集いにも自分の興味から喜んでついてきたようだった。終わって見ると、とても満足そうな顔をして帰っていった。
 私の小学生の頃にシートンの動物記が出版されはじめ、毎巻の出版を待ち遠しく、兄弟で争って読んでいた。気に入ったところは何度も読んで、熊や狼や烏などの話を今でも覚えている。動物が擬人化されてではなく、著者の側が感情移入して動物の個性にまで及ぶ生態を描いており、自然環境の中で生きる野生動物の偉大さに尊敬の念を抱くようになった。博物研究者として自然環境を体験し、知り尽くせたらどんなにか楽しかったであろうか?伊那谷に周囲の自然に対する博物的な愛好家が沢山いるのであろう。集いに参加していた子供をうらやましく感じた。講演を行った泉山さん、中アのサルの実態を報告した吉田さんも根っからの自然好きのようであり、子供の頃を彷彿とさせた。
 講演と報告から、ニホンザルの群れは、山地に群れのテリトリーを持って生活し、ネグラと餌場を確保しながら同じような順路を回遊している。そうした群れが、山麓から山中にテリトリーをはめ込むようにして生息している。里に出てくる群れとより山中に入って高山帯まで侵出してくる群れは、それぞれ異なる。サルの群れの生息域からすれば、山麓の土地利用の衰退で、生息域が拡大し、人間の生活域に接近したといえる。従来の山地の生息域と拡大した生息域は、奥地が植林によって生活が困難となり、拡大した二次林が生活しやすいと考えられる。高山帯への進出は、冬の時期には困難である点で、季節的なものということである。
 高山帯の千畳敷が観光化されたいることで、人間との接触が生じてきた。高山帯への季節的な進出は、芽吹きとともに、垂直高度を上げて移動し、道路の開設は移動を容易にし、法面の草地がサルの食料となって利用されるとのことである。観光客は、道路を移動中のサルを写真に写して楽しんでいる。サルは人になれ、ごく近くまで接近してくるようになった。
 サルの生態の研究者は、サルの行動する立場にたって環境をとらえ、人間にサルを理解することを求めるようである。雪の中で、サルがいかに困難に耐えて生活しているか、群れがどのように構成されているか、であり、足跡やふみわけ道から移動通路を探り、無線機をつけて行動を追跡し、糞から食べたものを推定する。