場所と場面の構造 快適な居住環境

 それぞれの人の居住環境は、戸内と戸外によって成り立っている。戸内は住宅建設に際して、一定の空間的条件に即応した機能的な生活基盤とともに生活の快適さが計画されているだろう。戸外は敷地内で庭として計画がなされるが、戸外の自然的条件に適合する必要がある。敷地外では、街路と隣接の住宅の環境があり、近隣社会によって関係づけられる。近隣空間における居住環境は、居住地の立地として生活機能と快適性が選択されているといえる。さらに、近隣空間は地区的な広がり、さらには都市空間と結合している。都市計画による街路整備、公園緑地の確保、中心商店街、公共施設の整備などが都市住民の生活条件と快適さを確保できるといえる。
 しかし、戸外の生活空間の計画性は、個人、近隣、自治体によってどの程度に実現されているであろうか。個々人の戸外空間は、自然的な条件、社会的な条件を計画できるものではなく、選択的に受容する問題である。住宅敷地の戸外空間において庭としての計画を持ちうるが、所得水準に対応して、敷地面積、敷地外の環境条件によって制約されており、社会的な宅地や住宅供給によって条件づけられている。近隣空間においては清掃などの環境管理の共同性が存在しえても、集団としての自治会組織が、高度な環境計画推進の主体となりえる可能性は低い。また、自治体における都市計画も既存の環境の改良を積み重ねて展開し、抜本的な都市計画を進める主体となる可能性も低い。さらに、都市周辺の農業地域の持続、地域的な自然環境の持続は、産業としての経済条件に支配されており、都市計画の範囲を超えている。居住環境が、こうした無計画で多元的に混乱して、無秩序に形成されているとすれば、生活条件と快適さを確保できることは、偶発的な状況であるか、個々の人の生活形態の構築の努力による他はないといえる。
 浅見編「住環境」東京大学出版会2001によれば、住環境は近代の理想都市、田園都市への目標を構成する条件として意識されたといえる。その根底はヒューマニズムと考えれば、人間的生活の条件ということである。居住環境の悪化として生じた問題解決が、公衆衛生学によって始まり、住環境評価が現況の調査によって行われるようになったそうである。世界保健機構の健康の標準から、日笠(1977)が導き出した居住環境の4つの理念は、安全性、保健性、利便性、快適性である。それぞれの理念に基づく、居住環境の整備が進められている。
 1980年代前半に地方公共団体による環境指標が示されているが、(日本計画行政学会編「環境指標」学陽社1986)快適環境指標が優先して取り上げられているようである。東京都の快適環境指標は清々しさ・静けさ、自然とのふれあい、美しさとゆとりの3点を示している。長崎県は快適環境指標に利便性と自然性を上げている。自然性は植生、景観、水辺環境、騒音を上げている。大阪府は快適性と利便性を並列して環境指標としており、快適性は緑の多さ、静けさ、大気のきれいさ、水辺への近接度が上げられている。
 居住環境を都市と農村で対比して考えると、保健性と安全性に一長一短があるとして、利便性と快適性の対比に対応している。