場所と場面の構造 場所の概念

 人を主体として形成された範囲が環境とすれば、その環境は主体の生活の場面の総体によって構成されているといえる。場面によって環境が知覚されるが、環境の総合化された眺めとしての風景の知覚は、視界の広がりが必要である。風景によって知覚される地表の範囲は、風景と同義語となる景観である。景観は視界にとらえられる土地の範囲を表わすことが、語源となっている。
 個人の生活が社会的な基盤の上で成立している点で、個人の生活環境は社会的な地域環境に依拠しているといえる。風景が環境の総合的知覚となる場合、地域環境が景観の範囲となり、景観と地域は社会環境として同義となる。社会に属する個人が地域内の場所から、地域全体を景観の眺めとして知覚する時、場面が設定され、風景が知覚される。
 景観、地域ともに土地、地表の広がりであり、延長すれば地球の表面となる。また、他の景観、他の地域の境界に接していくとすれば、地球表面は多くの景観、あるいは地域が境界を接して配置されているといえる。社会環境が地域を成立させ、地域の状態を景観として知覚する。広がりとしての地表に位置する範囲が場所である。地域も場所であり、地域内の住民個々の生活の場も場所である。さらに生活において行動する場面も場所である。生活の場は行動の場面を集合し、地域には多くの住民の場面が重なり合って集合している。地域はこうした住民の活動に場を準備し、活動が成立するように整備されて、住民の共同、集合した行動の場を提供する。
 人々が生活し、行動する上に、場所の認識が予め成立する必要があり、場所の認識がなければ行動し、生活することができないといえる。現代は情報によって、信号によって場所の認識を得ることが出来るが、情報と信号による認識を獲得しながらの行動となる。その認識がない場合、試行錯誤の経験によって場所の認識を獲得していく必要がある。
 場所の状態が人々の行動を妨害する場合と促進する場合がある。認識困難な状態は行動を妨害する要因となる。行動の場面を設定した時、場面設定の困難な状態と容易な状態がある。場所の諸条件がそこで行動する主体にある心理的な影響を与える。その心理的影響が快感である場合に、それは場所の風致と言えるものである。場所の諸条件を判断し、風致を感じ取ることができるのは、主体の知性であり、その向上である。知性に感じた風致をさらに維持し、向上させるように、場所の条件を維持、改変させれば、その場所の風致を持続、向上させることができる。
 場所に場面が設定され風景が知覚される場合、風景の知覚は場所の風致を伴っている。主体が位置する場所によって風致を感じながら、隔てられた景観を風景として知覚するからである。透視図法は場所と景観が、連続する風景である。また、風景の前景は、場所の状態の近景を景観に重ねて、主体の遠近の重層した意識を示している。遠景に合致した前景、逆に違和感を感じさせる前景によって、総合として重要な風景の調和は成立したり、できなかったりする。
 場所が空間的に閉鎖されている場合、風景の知覚は成立しなくなる。視界を遮る壁面によって閉鎖的な空間が構成される。空間の限定は近接した事物への意識の集中を生み出すが、限られた空間の条件によって圧迫感を生じさせ、知性の減退を生み出すと考えられる。
 場所は、敷地site、ground、土地landであり、空地area、場fieldであり、場所・広場placeであり、地形による区分、利用による区分、設備による区分などによって条件づけられている。地点spot、立地situation、位置position、所在location場面scene、空間space、部屋room、席seatも場所としての用語となる。