森林風致 林業経営

 森林美学は施業林の美において追求された。雑木林には、雑木林としての美があるが、薪炭林として萌芽更新の中林作業を行い、その結果生まれた広葉樹林に、都市住民が美を感じたといえる。竹林にも同様の美がある。こうした雑木林や竹林が、利用価値を失い、放置されると過密となって、生育の悪い森林となって、これを見苦しく感じる。ただ、見苦しいのではなく、生産のために手入れされ維持された雑木林と竹林の本来の姿が消えうせて、目的のない、無用な森林に姿を変えたことに、雑然さを増幅させるのであろう。
 施業林も生産目的をもって整然とした姿であることは、施業林の美が成立しているといえる。しかし、手入れが過剰に行われることは、合自然的な林業には相応しくない。逆に、労力を最小限に、自然の成長を促進する施業方法が求められる。労力を加えないことの放置は、林業に是認されることであるが、これまで集約的な手入れが行われてきた森林が、急に放置されると、過密による衰退が生じる。目的と労力負担を考えた施業方法を選択し、施業を継続する必要がある。 
 戦後の植林と拡大造林による林相転換による人工林の増大は、40年生から50年生の収穫期となる森林を各所に出現させている。これも供給側の条件であるが、外材による供給が競合して価格低廉となるため、労力をかけられずに、保育作業が停滞した放置状態の森林を作り出した。こうした放置状態をも施業と考えて、生育した林木の状態を評価して、今後の育成方針を見出す必要がある。また、この蓄積と人工林の面的広がりを生かして、森林を持続させ、木材生産、環境保全、住民環境のための森林風致育成の諸目的を念頭に置いた森林経営による管理体制が必要と考える。森林経営を前提として継続的な木材生産による森林の保続と森林の保続が環境保全を実現し、森林風致の育成と利用を可能にすると考えられる。放置林分の現状を間伐などの保育作業によって、目的に合致した森林構造に改良し、合わせて風致育成をはかることは、一時的なものである。時間がたち、林木が生長して新たな森林構造が生じた時には、また、森林構造の改良を行う必要が生まれるが、それが可能かを判断できるかは、森林経営の成立である。間伐などの補助事業は、小面積所有者の一時的な森林改良には有効であるが、経営的な継続性は疑問である。森林経営は大面積森林所有によってしか、成立しえないとすれば、3000人程度と少数であり、カバーできる面積もその割合は少ない。市町村の公有林なども以前は専門部署による林業経営が見られたが、林業低迷の中で減退したのであろう。国有林経営は、大規模な経営体であったが、過重な独立採算によって森林資源を縮小させ、林業経営を困難な状態としている。
 経済的な林業経営の条件は、困難なものとなっている。しかし、環境材としての森林の価値は重視されてきている。とくに、面積割合の広大な個人有林において、単発的な森林育成を、地域的に関連させた地域森林計画が重要である。地域森林計画制度が存在しているが、行政指導の立場からでなく、森林所有者の共同組織であるとともに、地域住民との協力関係を助長する、経営組織が必要であろう。地域森林計画の目標を明確にすることによって、目標に到達するための事業計画を実現し、利益と効果を生産者と住民が分かち合えることが必要である。富県地区では、地域森林計画の構想を持ち、各地区で事業計画を立案するとともに、事業の担い手となる育林活動の団体が生まれてきている。