森林風致 山林風景

 山地風景の山林風景へと変貌が、各所で起こってきたこと、江戸時代に山地の保全のために、森林の利用規制を行う必要があったことは、景観、林学で取り上げられてきたことである。しかし、それは歴史的ことではなく、戦後まで、山地風景が残る地域があったことを、論の展開として、治山事業の問題として取り上げるべきだろう。荒廃地の土砂が河川に流出し、河川の制御が困難であったために、明治に招かれたオランダ人技術者が、上流の治山事業を行う必要があったことを念頭におくべきだろう。乱暴な林道開設、崩壊に対する砂防ダムや治山工事の多用によって、山林風景を破壊していることを、見過ごせないのである。森林規制によって山地保全をはかる必要があることは、認識されているだろうが、森林の利用が減退し、開発と施設建設が優先してきたのではないだろうか。
 山林に対して山野を対比してみると、山林は山地にある林であるのに、山野は山と野が並列しているように考えるのは何故だろう。山地の林は、林業のために成立したものであるとすれば、山林風景は林業地の森林風景であるといえるだろう。自動車の普及は、林業において林道を不可欠とするようになった。山林風景は林道に沿って展開するといえる。林道の幅員の広さと斜面の勾配の急傾斜によって、切り土と盛り土による地形改変が大きくなり、法面の人工斜面ができる。緑化、セメント吹きつけ、などの表面処理は、人工を際立たせる。規模の大きな林道は山林を切り開き、山林風景ではなく、林道風景となる。自動車による林道の通過は、林道風景を展開させる。斜面の尾根、山腹、谷を巡る屈曲は、自動車の速度とともに林道風景を変化させる。林道によって切り開かれた山林は、法面とともに林道の壁を作り、視野の側方を閉鎖する。前方は見通しは曲がり角で遮られ、透視図法の眺めは閉鎖される。急傾斜な斜面では、車道の幅員を狭く、地形に合わせて曲折を細かくすれば、地形改変を小さくすることができる。山林の切り開きも少なく、樹冠が両側からつながり、林冠が閉鎖されると、林道は林内を通過し、山林風景を確保することができる。山林風景が林内の閉鎖された眺めとなると、側方は自動車の速度によって流れて、見えない眺めとなり、前方がトンネル状態に見通すものとなる。