風致と風景 時の光景

 時間・空間は事物の存在の形式としての4次元である。事物の過去の時間経過の相違は、現在の空間に反映している。事物の物性によって、風化するものと成長するものとの差異が生まれる。すなわち、鉱物は風化し、樹木は生長する。あるいは人工物は風化し、耐久性に従がって老朽化する。樹木・森林は成長する。都市環境の中で、建築物は時間と共に老朽化し、更新、改築が必要となる。耐久性と管理によって老朽化の度合が異なる。樹木は成長し、空間の占有範囲を広げる。管理によって空間の範囲を限定することができる。こうした時間に伴う物性の相違が、時間とともに顕著になってくる。
 都市空間を構成する要素として建築と樹木が並列している場合に、この対比は調和しうるのであろうか?建築の印象は、風化と老朽化によって薄められ、自然的となり、樹木は剪定によって空間の収められ、また、人工化する。そこに、時間とともに調和が生まれる接点があるのかもしれない。しかし、その調和は計画によって意識的に生み出されたのではなく、自然任せの偶然によって生まれたものにすぎない。樹木を剪定して限られた空間に押し込めることによって、成長する樹木の性格を損なうことになる。有機的な調和は作られず、関係することも無く、ただ、無機的に並列するだけなのかもしれない。
 建物同士もできてから経過した時間はばらばらである。街全体で建物の盛衰が生まれ、それは各建物を使用する企業の経済活動の結果なのである。街の立地条件の変化を土台として、企業の盛衰が、建物の盛衰として現われている。樹木が管理され、固定的な空間の範囲に押し込められているのに、建築群として街は、個々の企業の意図を離れて、自然まかせに盛衰を遂げている。乱雑な街の風景は、時間的に進行する劇的な光景であり、対比的に本来成長と季節によって劇的な光景を演出するはずの街路樹が固定的で人工的な光景を生み出している。