森林風致 自然公園の森林施業

 自然公園の保護地域の森林は、景観として固定的に持続するものと考えられ、保護が重視されてきた。というよりは、森林施業は林業の問題であり、施業を制限することだけで自然公園としての景観保護が図られてきたのではないだろうか。その結果、保護がはかられる区域が限定され、制限の少ない普通地域で森林施業は、自然公園とは無関係に行いうることになった。少なくとも、長野県にある山岳景観を主とする自然公園の保護地域の森林は亜高山帯以上で施業の見通しのないような森林であることが多い。森林施業制限は禁伐、択伐、小面積皆伐皆伐まで保護段階に応じて少なくなっており、禁伐、択伐などの区域は少ない。また、とても森林施業を行うには不適な地域である。
 かくして自然公園における自然保護と林業とは対立的な関係に置かれているように見える。自然公園は地域制公園として区域指定であり、土地所有、産業的な土地利用は、一定の制限を受けながら、指定以前の状態が持続している。自然公園に指定された区域に占める国有林の割合は大きい。国有林の施策としても、生態系保存や休養利用の受け入れなど、自然公園の保護、利用を補完しているような関係も見られ、国立公園に限られない点で地域への貢献は大きいといえる。一方、国有林の根幹をなしてきた林業経営は、伐採などの制限を受ける点で自然公園とは相反する面があった。国有林の独立採算制が収入持続のために過剰な伐採事業を進展させたといわれるが、大面積皆伐が自然破壊であるとして非難をあびることとなった。
 今日、国有林の資源が枯渇し、林業の持続を困難にしたことを、南アルプスなどに見ることができる。森林政策も環境重視へと転換している。しかし、林業経営の展望を持たない、森林育成事業は停滞し、環境にも支障となる。自然公園、国有林に限ることではないが、人工林の放置が問題となり、森林育成の必要が叫ばれている。長期の放置は、森林の成長、自然回復の側面もあり、高齢林として収穫の予定された時期に達した森林も増大している。問題は収穫しても収入にはならないことである。国内材の利用を促進するために、外材の輸入を制限すべきだという政策中心で解決しようとする極論もあるが、どうであろうか。高蓄積の森林を保有して、長期間の輪伐期による法正状態を成立させ、持続的林業を確立する好機ではないだろうか。蓄積の増加する森林育成とともに、連続的な林齢の森林配置となるように、森林更新を図ることも必要であろう。また、省力的な森林持続のために、合自然的な森林施業が選択されることも必要である。現在ほど展望を持った森林計画が必要とされる時期はないのではないだろうか。
 自然公園における優れた景観は、人が近づけないような険しい環境であったり、人跡未踏なために手がつけられずに残された自然環境であったりする場合が多い。林業的に利用されている区域は自然公園区域には入らないか、景観区域のバッファーゾーンの役割から区域に含まれる場合が多くなる。国有林が自然公園区域と重なることも多いが、林業経営には抵触しない区域であるとともに、自然公園管理には、協調し、主体的な担い手にもなりうる立場となる。また、国有林内には「保護林」として、自然環境が確保されている箇所も保有している。こうした自然公園の主要な担い手となるとともに、自然公園区域内の主要な景観の背景として森林育成に貢献しうる立場でもある。自然公園区域が奥地の高標高の場所に設定されているのしても山麓から連続する地域環境としてとらえられる点で、森林施業による景観維持と林業の両立は不可欠である。労力の度合を山麓と奥地の急峻な場所とは相違させるなどして、適地に応じた森林施業を展開する地域的な森林計画が作られる必要がある。