森林風致 自然公園内の森林

 山岳や高原を主とした自然公園の景観は、山頂や高原台地が中心として取り上げられる。しかし、面的に最も大きな比重を占めている景観は森林である。森林という背景の中に自然公園の主要な景観要素があるといえる。しかし、森林は山頂の眺望景観の背景だけではなく、山麓生活域にとっての背景となる自然資源、環境域でもある。自然公園区域内は生産活動が許容されてきたが、実は生産活動の持続が、自然公園の景観資源としての森林を持続させていたといえる。自然公園区域の境界は、生活域の生産活動の区域外からの連続によって意識する必要もなかった。
 しかし、山地が燃料や農業資源として利用が行われなくなり、林業を目指した植林が行われ、また、その人工林が外材輸入と競合して利用されなくなると、利用目的を失って放置された状態となってきた。植林された人工林の成長、放置された山地の森林遷移によって、森林環境の変化が進むとともに、その森林の位置づけが、環境、景観の重視へと変わって来た。国有林における学術保護林や自然休養林などが新たな脚光を浴び、生態系保護地域の指定なども時代に即応して行われた。しかし、一方で広い区域の森林が利用されずに、放置されていることが、野生鳥獣の獣害と関連しているのではないか、景観を悪化させているのではないかと問題とされることになった。
 かっては利用することによって人々の生活と山地、森林は共生するものであり、環境、景観にも利用されうる環境であった。しかし、時代は変わり、過去の状態に戻ることはできない。人口が減少する時代を向かえ、山林に対する労働力の面でも、山林の利用の面でも、新たな環境としての評価の面でも、資源的な蓄積の面でも、拡大造林を進めた時代とは大きく変貌している。
 自然公園区域の森林景観の持続は、困難ではなくなっているといえるが、人間が入ることもできず、利用価値もない、自然景観に回復することもできずに放置されたものであるとすれば、その風景は人間も自然も疎外した寒々しいものであるだろう。そこで、人工林の自然回復を促進させる作業が必要であろう。自然公園区域とは限らないが、野生鳥獣の生息環境としても安定を回復させ、野生鳥獣の保護と獣害防止の両立をはかることが課題であるだろう。自然回復によって、森林の更新、持続が自立的に進行することによって、育成労力を省力化することも、両立させる必要がある。資源的な蓄積増加をさらに促進させ、高齢林、巨木林を循環的に成立させるような施業計画が必要となる。国有林は高度な技術を集積しており、こうした技術を高度に駆使した新たな森林施業を展開し、経済と美の調和させた森林地域を形成させることが望まれる。森林環境育成の展開は、自然公園利用の範囲を広範囲にし、より自然との体験を深めることにも役立つであろう。また、こうした森林環境が、山麓の生活域の森林環境に連続した環境となる可能性も考えられる。
 自然公園区域において産業活動として林業に制限を加える時代は終わり、自然公園の保護と利用に経済目的を包含した、協同が求められているといえる。また、自然公園区域としての境界も、森林環境を媒介とした生活域との関係によって、連続的なものに転換する可能性がある。こうした展望は現在向かっている道なのであろうか、あるいは単なる空想なのであろうか。現状を広く認識していく必要がある。