森林風致 残存樹林

 森林は農業が始る以前は地表のほとんどを覆っていたにちがいない。また、その森林は人為の介在の少ない天然林であり、原生林の状態が想定される。人類の進化が道具の使用とともにあり、自然を改変する火の使用、さらには、植物の栽培として農業が始り、広まっていくと、土地利用のために自然の改造は大規模になって拡大していった。森林は土地利用のできないような場所の残存となった。しかし、自然の大規模な改造には、災害の危険を大きくし、あるいは生活や農業に役立つ森林環境を失うこともあったであろう。人類の自然改造が、森林を失った結果、古代文明の地に荒野を生み出していった指摘もある。
 寺院の境内でさえも、スギ以外の広葉樹の大木が伐採されることを心配して、その寺の檀家の1人が、大木に注連縄を巻いておくという話を聞いたことがある。寺社の境内には森林が聖域となって残されていたと思っていたら、そうではなく、立替のための用材を育成するための森林であったのであろうか。確かに神社の境内林にも、聖域と用材林の二通りがあるようである。聖域の森林は山地にある場合が多いようであるが、平地にもないわけではなさそうである。山地の聖域は諏訪大社に平地の聖域は小野神社に見ることができる。境内が小面積の集落の神社では、聖域を森林として保つことは難しく、樹林、樹木で天然か人工かが分かれるようである。山麓の神社は天然の樹林の要素が大きく、平地の神社は人工林が多くなると思われる。
 残存した樹林の中で、寺社などの信仰の場としての森林に高齢林、天然林、樹林、樹木が残され、他の森林には、そうした寺社境内のような森林が見られないことは、森林を保存する意識の相違が表れている。残存樹林にあっても森林保護の意識は、限られており、乏しいことを示している。
 林業は森林資源を持続的に維持して木材生産を持続する考えのもとに成立したもので、森林保護と利用とが両輪となっている。戦後、植林によって成長してきた人工林が林業へと転換するためには、森林に対する意識変革と経営計画が必要であろう。寺社の境内林で培われている森林崇拝と保護の意識は、人工林育成の場にも連続させることが、重要であり、一方で境内林の用材林として森林を育成する意識も重要である。また、こうした境内林は、人工林育成の将来目標にもなるであろう。
 各地域を形成した土地開発は長い歴史として、今日まで継続しており、森林と土地利用は地域の拮抗する地表要素といえる。土地利用にとっては森林は残存であるが、山地、災害は土地利用を制限する条件であり、山地、急傾斜地、災害危険地に森林が成立していることが多い。日本のように山地面積の割合が大きいだけ、森林が成立し、開発された生活域を森林が囲んでいるような状態をもたらしてきた。しかし、大都市域では生活域が拡大するだけ、森林は喪失することによって遠隔地になっていったといえる。