森林風致 林業と環境

 林業が成立していれば、それに伴って森林環境は「よい」はずである。このような仮説は割合に信じられている。しかし、林業がどのような状態で行なわれているか、よいという評価は何によって行われるかが問題である。林業を戦後、植林による人工林を指して、育林が行われている状態を言うならば、育林の実行・不実行が林業成立の認否の判断となる。育林が行われれば、環境が良くなり、行わなければ、悪くなるという論となってくる。
 しかし、古い林業地域に行って見れば、土地利用の面から林業と環境は対立した関係にあることが、景観に示されている。山地に林業を展開する上で、注意深い土地利用が必要なことは言うまでもないことであるが、林業を持続させ、その地域で長年、生活することによって成立した景観はこれを顕著に示している。吉野林業地域に出かけて感じた山地の景観は、いたるところに杉林が成立しているものであった。高密な植林は林内を暗くし、林床植生も見られないほどであった。しかし、林分は小区画で異なる林齢の森林となっており、それぞれの林分の樹高と密度とが適合して密度管理がなされていた。皆伐の区画を見出すことは困難であった。おそらく、長伐期の法正状態の森林管理が成立していると感じられた。さらに、こうした林地を細かく見ていくと、尾根、沢に広葉樹が残されており、山麓の集落周辺の山際にも広葉樹林になっていることに気づくのである。林業の持続が、山地の環境に適合することによって成立するとともに、林業によって生まれる森林環境の欠陥を、山地の自然環境を残すことによって補完しなくてはならなかったのであろう。
 こうした林業地域から見れば、拡大した人工林の森林景観は、自然環境への配慮はほとんど見られない。