風致と風景 色彩

 明暗の対比は、戸外と戸内、昼と夜の違いで陽光の遮断と有無によるのであろうが、林外と林内は、明暗だけの差ではない。林内は暗がりではなく、陽光と陰、直射光と間接光が交叉し、視界の広がりが陰影の奥行きとなって広がる。夜の林内は闇が濃淡となる世界である。戸外と林外の昼の世界は同じことであるが、反射と陰影の対比と反射する部分の色彩の対比の世界である。明暗の対比で形を感じ、陰影によって立体と表面の状態を知覚する。表面の肌理と色彩は事物が何かという判断に役立つ。
 落葉広葉樹の林内の季節変化は、陽光のの変化によって起こるが、植物の色彩の変化が、その変化を鮮明なものとするように、加速させている。冬の明るい木立は早春から林床が緑に覆われはじめる。初夏には枯木立は爽やかな緑の樹冠に変わり、林内は明るい緑の世界となる。盛夏となって樹冠は濃緑となって林内を暗く、涼しく、林床はその生育の勢いを失っていく。秋になるにつれて、林床の植物は黄ばみ始め、やがて、林冠が一気に黄葉していくと、輝く黄金の世界となる。ただ、それは一瞬のことである。冷たい風が吹きぬけ、落葉が始ると、冬の枯木立の世界となって、すべての植物の休眠の季節に、日差しが木立の中を通り抜けて、地面や落葉、幹の茶色に覆われる。

 森林は植物が活動する期間は緑色で覆われる。葉緑素光合成によって炭酸同化作用を行うためである。森林の緑に大地が覆われると、太陽の日差しも大地に吸収され和らげられる。天空の青、雲の白、地上の緑、水面の黒と白の波模様は、夏の風景の色彩となる。夜は星空と地上の黒い影、水面の反射となって、光を失った風景は色彩を失っている。夜の風景と同じように、冬は陽光の弱まりとともに、緑は無くなり、地面の赤茶色が、空の青さに対比する。
 人工物、土地利用は、無機物によって構成されたり、植物の被覆を剥ぎ取って、鉱物質の地面を広げる。人工物の集積した都市は、灰色を基調とする鉱物と色彩で、天空に突き出て空の範囲を狭める。荒廃した谷の崖地の風景に似て、色彩は鉱物の灰色である。
 光によって、色が生まれるが、事物の色は、光の変化とともに、整然とした秩序でその事物の特性を表現しているのではないか。