場所と場面の構造 地域社会

 近代における都市への人口集中は、それまでの社会が基盤としていた共同体社会から、個人を独立させ、自由を強調する社会へと転換させる背景となった。一方、個人は他人と区別されて孤独となり、社会に対する立場が稀弱となった。これを補うように行政組織の末端に、古い共同体が持続した。ドーアによる「都市の日本人」は戦後の都市の末端の地域社会を実態調査して分析している点で著名であり、こうした近代以前の社会の持続を示唆したものであったのだろうか。農村地域における地域社会の古い共同体との関係は、より緊密に持続している。明治における近代化への転換、戦後における民主主義の強調は、こうした農村の地域社会にどのように作用したのであろうか。伊那における住民生活から、こうした地域社会の有様を、疑問として持ったのである。