生活環境

 建築学会で10年も前に、人間対空間から、人間−環境系におけるデザインが志向された。環境は物理的な空間の面だけでなく、社会生活の場面における人間関係、人間が行動する上での情報、判断の材料となる知識すべてが、人間が生活している環境であり、その環境を選択して行動し、また、改造することによって、人間からの働きかけが作用することも環境の側面である。今日、交通手段、インターネットによる情報網、科学の進展に伴う知識の蓄積などによって、環境の広がりは地球規模、人類規模に及んでいるといえる。広がった環境に対する人間の作用も、国際的な規模となって生じている。
 こうした環境が、人類共通の土台となってきたといえるのであろう。しかし、こうした広範な環境は、個人的な空間スケールから遙かに乖離しているようにも考えられる。そこに、個人とその集合の「場所」の問題が生まれるのであろうか。生活と環境の接点を場所としてとらえ、個人の場所のイメージと場所における個々の行動と心理との相互関係が課題となる。脳科学の進歩は、器官である脳が、環境を知覚し、意識して、行動する過程を明らかにしてきている。環境に対する選択や働きかけをデザインと言うならば、個々の人の生活そのものが「環境デザイン」ということができる。それは上記の人間−環境系ではなく、個々の人間を中心として形成された自己−環境系のデザインといえるだろう。
 自己−環境系は、人間−環境系の一端を担い、また、利用して成立する。人間−環境系自体が、自己−環境系の内の環境に連結していると考えられる。人間−環境系は社会あるいは人類共通の土台であるが、それを環境として選択して成立する自己−環境系は個人、個人で作り出される。そこに働く共通項は、社会制度や人間的尺度である点から、人間−環境系へと連結していると考えられる。