1-1 景観研究の意義

 造園雑誌1986年の特集に景観研究の系譜が取り上げられている。景観は地理学の問題であるとすれば、造園学で何故、特集に取り上げたか疑問を持った。造園学が何を目指すのかによって、景観研究の意義が考えられるのであろうが、造園学自体の定義が不明確なままに、景観の位置づけはできないであろう。英語で造園がlandscape architecture であるからとすれば、造園を景観計画とすべきであったろう。Landscapeを通じて都市環境、居住環境の向上を図ることが、landscape architectureといえるであろう。造園は、庭園に留まっているイメージがあり、一般の人も造園を庭造りと受け取り、造園業の主軸は庭園である。
景観は土木の領域で施設を中心とした景観形成が課題となる。また、建築の領域で建築物による都市景観の形成が課題となる。そして、景観自体は地理学の領域で、一般の人は地域の概観の説明として受け止めるだろう。landscape architectureは風景式庭園の展開と土木と建築の結合として生まれたとすれば、造園学の関与する景観は限られている。
自然公園は国土的・地域的スケールの自然環境を保護し、利用する制度であるが、保護すべき自然環境を評価する上で、景観が問題とされる。また、その景観が利用価値があるかによっても評価されるであろう。利用されることによって景観価値が低下することもある。利用価値と利用による景観価値の低下は、造園分野の問題といえるかもしれない。また、施設建設による景観価値の変化は土木、建築の分野に関係する問題である。保護すべき自然景観は、地理学の問題となるので、造園学の関与する問題は、公園利用に関係することである。
 また、自然環境の持続が、生活環境にとって必要とされるようになってくると、生活環境のための自然環境保全が問題となる。開発による自然環境への影響は、環境アセスメントの対象となる。個別な環境要素への影響から、総合的な評価が行われ、それぞれの専門分野が関係する。環境を表面的な全体像として知覚される景観の変化は、総合的な評価を実感する上で問題となる点で、環境アセスメントの一環に組み込まれる可能性がある。この場合の景観が地理学の問題かといえば、疑問となる。造園学が戸外環境創造の一端にある分野とすれば、造園学の関与の可能性もあるが、敷地計画の範囲を超えた生活環境に向けた大きな転換を要することになる。