1-1 大地の復権

 都市環境に自然が欠除していると感じることは当然なものとされる。また、逆に都市にも自然があるという言も受け入れられるだろう。自然そのものと感じられる森林、天然林はそういってもよいが、人工林にも自然は豊富だということは該当する。森林が利用されても森林は回復する。自然は無機的自然の上に有機的自然が持続していると考えられる。都市環境は有機的自然を失って、無機的自然がむき出しで存在する環境といえる。森林環境は有機的自然が持続し、無機的自然と有機的自然は一体となっている。
 無機的自然である地表と有機的自然を結合しているものが、土壌であることは農学者が古くから言明していることである。土壌なくしては農業生産は成立し得ない。古代の人々も土壌が豊かな大地を、恵みの母神、ガイアとして崇拝していたとのことである。土壌は有機的な自然の持続によって生み出される。森林は農業にとって開発の障害となる環境であったが、その森林が育んだ土壌が農業の母体となっている。父なる森と母なる大地が、土壌を作り出し、人々が生活する。長い農業の営みに人々が実感してきたことであろう。
 ガイアは地理学の語源ともなっており、地表の状態の科学として適切な言葉である。地表の相貌として「景観」をとらえている。都市環境、農村環境、自然環境は、景観によって区別される。しかし、その根底は連続した地表であり、景観はその表面の状態にとどまるものなのである。
 地表は人間の活動以前には無機的自然である大地に有機的自然が連関する森林環境が持続していたと考えるなら、地表の有機的自然の欠除によって、人工的環境が評価されるだろう。人工的環境にも自然がある。その自然から、自然の欠除を補完する方法として、緑化を位置づけなくてはならないのだろう。
 都市環境は人間の生活環境が無機的環境に展開し、失われた有機的環境を回復させて成立している考えれば、生活環境の建設技術としての建築、無機的環境である土台や基盤を整備する土木、生物の有機的環境の回復技術としての造園の専門分野を位置づけることが出来るかもしれない。しかし、厳しい競争社会、過酷な自然環境、したたかな生物環境は、建設的な技術の展開を阻む問題をもたらしている。
 近代の林業は、木材生産の産業であるとともに、悪化した環境を植林によって回復させる環境改善が結合して成立したものと考えられ、大地の力を借りて、有機的環境を回復させ、地球環境の無機的環境の回復につながる問題に浮上してきたのだろう。