高い空、低い雲

 今日は空一面が雲で覆われているようにみえる。しかし、地表と雲の隙間に遥かな山々が光の中に浮き上がっていて、視線は遠望に向かう。晴れた日には地表にさえも注意していないのに、遠望に意識を誘っているように見える。

地表の空間
 展望する風景にとって、地表の広がりが俯瞰されると共に、高い空が広がり、視線は空に注目される。低い雲はその空の広がりを抑えて、地表に眼を向けさせる。地表と雲に挟まれて扁平な大気圏の層が実感され、地表が人々の住む空間であることを知覚させる。この空間の中で、大気はまた、対流としての風となり、寒暖を感じさせ、乾湿を感じさせる。
 低く押さえつけるような雲は、人々に生活の限界と不安を感じさせる風景となり、晴れた空の高さは、とらえどころない空想に人々の意識を誘う風景となる。大気の寒暖は緊張と弛緩をもたらし、乾湿は分断と連続の感覚をもたらし、風の強弱は動的、静的な感情を刺激する。

風景と感情の関係
 風景と感情との関係は、必ずしも一致しない。風景が与える感情の喚起、感情を通して眺める風景との関係は、一致する場合は相互に強められ、一致しない場合は、風景は空々しいか、無視される。人が風景を感じる点で、感情によって風景が知覚され、そこに内面と外界との関係が意識されてくる。
 大なり小なり、風景は情景としての性格があるのだろう。