善光寺門前町の整備

はじめに
 昨年末、善光寺門前町の並木としたカツラの生育障害に関して、T氏から研究所に相談があった。並木の管理をめぐって住民間に意見の齟齬があって専門家の診断を仰ぎたいとのことであった。しかし、そればかりではなく、門前町の賑わいを持続するための町並み整備についても意見を求めるものだった。T氏には町の合意の上で相談しましょうとしてから、1年間が過ぎたが、その後の連絡はない。おそらく、合意にはまだまだ、時間もかかり、合意の成立自体が不可能かもしれない。資料を返してこの件に区切りをつけることにするが、問題を残したままなので、一応の整理をしておきたい。

町並み整備の必要
 門前町長野市市街の発祥の地ともいえる場所であり、その範囲は小区域であるが、歴史的な建物など市街発展の過程と文化が凝縮しており、今でも賑わいの中心の位置を持続している。鉄道が敷かれ、長野駅に交通の中心が移ったが、長野駅から善光寺への参道を延長して連続し、交通の中心と善光寺に参集する中心とを連続する市街地が発展した。昭和40年代に自動車の普及が急速に進み、次第に交通網が面的に拡大整備され、参道の軸線は拡散していった。
 観光客に対して善光寺境内に駐車場が作られ、門前町を経由しないで善光寺に入れるようになり、駅前の中心市街と門前町とのつながりも希薄となっていったと考えられる。門前町は小観光拠点に過ぎなくなり、衰退していったといえる。駅前からのプラタナスの並木は貧弱となり、アーケードに邪魔な存在となっていた。
 そこで十数年前に門前町の舗装と街灯などの整備がなされ、その時に並木としてカツラが植えられた。この整備は観光小拠点の特徴を顕在化させ、一定の成功を収めたといえる。しかし、中心市街が衰退し、駅前からのつながりはますます希薄になるとともに、善光寺との結合も希薄で、周囲から切り離された区域となっていったといえる。そこで、単独の地域で、より、魅力を増大させ、観光客の集中をはかる必要があったといえるのではないだろうか。
 門前町の特徴と魅力のために、歴史的環境の保全と自然との共生をイメージして、T氏は町並み整備の成功例をモデルにしようと考えたようである。そこに、並木は重要な要素と考えられた。
 しかし、門前町は、善光寺と駅前市街地を中継する位置にあり、長野市街地が善光寺をシンボルとしていく上で重要な役割を持っており、自動車時代の市街地の拡散傾向を是正することが先決であるのではないか。また、門前町の住民間でまとまりを欠く状態は、市街中核の住民としての自覚に問題があると考える。過去の栄光を再現するためにも、まず、住民の結束と問題解決への目的意識が重要である。そのような町づくりの主体が生じるのであろうか。

並木の生育と管理
 並木の生育状態の診断は当研究所に専門研究者がいるので、必要とあれば調査できる。多くの場合、根茎に問題が生じ、それは土壌が原因となる。市街地の並木植枡は小さく、また、道路の構造から基盤は固められている。生育条件が良好な場所は少ない。生育状態と土壌調査が必要である。カツラは植栽されて10年以上になっているが、成長はあまりしていない。調査してみないと原因はわからないだろうが、T氏は剪定管理に原因があると推定している。門前町の街路にカツラが適していたかも診断が必要だろう。

町づくりの推進
 T氏のことで書かせていただきましたが、門前町の街づくりは、熱意あふれる方があって、はじめて可能になってくると思います。前回の整備は、その証明だと思っています。ブログに書きましたように、大門町の位置と歴史は、長野市市街の中核ですので、その町づくりは大門町に限らず、長野市街全体への波及効果は絶大だと思います。M先生が言っていたように、善光寺を市街地へと開放させる重要な位置にもあります。
 以上に広く考えれば、門前町のまちづくりは、長野市の死命を制する問題にもなると思います。人口の高齢化と減少、経済の停滞が進行するなかで、縮小、空洞化する市街地を逆転の発想で整備することが必要となるでしょう。そのためには、市民の広い合意による自治体の主導権が不可欠でしょう。そこに、いたるまでに、門前町の住民合意が必要で、内部に意見の齟齬が生じていたのでは、さらに広げて、善光寺、市街各地区、ひいては市民との連携にいたる街づくり道のりは不可能ではないでしょうか。街づくり運動推進の中核として頑張っていただきたいことが、期待の本旨です。
 私たちの森林風致計画研究所は、都市の周辺に広がる森林の多様な効果を実感するものとして、森林風致を住民生活に必要と考えています。街づくりは住民生活自体を快適にし、人々の楽しめ、集まる町にしていくことかと思います。街づくりによる生活向上は、周囲の森林と結びついて、自然と人間の共生する、生活実感に展開していくのではないかと思います。私たちはこのような立場で街づくりにも関わっていきたいのです。
 また、是非、必要が生じましたら、わたしたちの研究所にお声をかけていただけましたら、幸いです。こちらからも、御援助をお願いに行くこともあるかと思いますので、今後もよろしく、お願いいたします。ブログは、新たな展望が開けるよう考察を進め、文面を適宜、書き換えています。もし、よろしければ、ご覧になって下さい。