日本の庭ことはじめ1

岡田憲久著「日本の庭ことはじめ」
 本著書は、造園デザイナーの立場で庭つくりの理解を深めており、近代の日本庭園に取り組んだ作家あるいは施主の庭つくりへの情熱が庭空間へ凝縮している様を明らかにしている。その考察は著者の主観的な判断といえるが、著者自身がデザイナーの立場で感情移入して、庭空間に表現された点を根拠にして論じており、その作品への論評は客観性を持ち得ているといえる。そうした点で、庭園作家への評論の立場の可能性を示している。
 しかし、著者の目的は、庭園作品の評論を行うことではなく、過去から現在を通観する庭の根源を明らかにすることであり、それはまた、時代超えた人間のあり方としての自然との関係であるといえる。庭から、人と自然の関係へと広がるとともに、庭を人と自然の関係のもとに具体的に位置づけることを試みているといえる。
 私は、造園デザイナーではなく、研究者の立場から、造園原論としての著者の庭づくり論への構想に大きな期待を感じている。しかし、庭への類まれな感覚と創造性をもった施主と造園デザイナーに見られた庭づくりが、時代の社会的な変動に左右されながら、ささやかな日常空間を求める多数の生活者の庭づくりから、遠く遊離していることは明らかである。特定の庭園作者と一般大衆の庭づくりがどのように関係するか、著者にとってそれは、自然との関係であるという仮説を提示している。自然との関係は、思索的な庭づくりにあるのではなく、自然を利用して生存してきた、下部構造として生産関係に由来するものと考えられる。