森林風致の展開

はじめに
 森林風致研究所の掲げる森林風致を活動としてどう展開するのか、年末に加藤さんよりメイルを頂き、構想を提示していただいた。会員にはかり、議論としなくてはならなかったが、現在までのびてしまった。核心的に森林風致とは何かを明らかにすることも重要ではあるが、森林風致が展開して他の領域の概念とどのように関係しているかは、実際の活動、あるいは活動可能性として考えておかねばならない課題といえる。

加藤さんの構想
 森林風致計画を構成する主な項目に、次の4つを挙げている。1、森林科学の側面、2、森林の機能、3、計画段階、4、森林と人間の時間軸の4項目である。この4項目から抽出されるものとして、5、森林風致とはの論議を設定し、活動分野として位置づけている。関連する諸分野は1〜4にまたがって、広がっている。
 構想の構造概念図は関連する諸分野の核心から、森林の効用へと広がり、森林の効用は具体的な立地へと展開する、この球状の概念群から、抽出されて森林風致の概念があり、さらに活動分野が示されている。関連分野には森林景観、森林レクリエーション、森林療法、森林施業、森林管理、森林生態、生態管理、歴史伝統、風土工学、地域計画、都市計画、環境政策、環境教育、緑の効果、治山治水、生物多様性と上げられている。森林風致にどのような関連があるかが、問題であり、それによってこの上げられた関連分野をを取捨選択する必要がある。
 森林風致に直接関係する分野として風致施業、森林管理、森林生態を取り上げてよいだろう。これを内的関係とすれば、森林景観、森林レクリエーション、森林療法は、景観、レクリエーション、療法として、森林に限定される内的関係とは言えないのではないだろうか。しかし、森林風致が人と森林の関係である点で、人が暮らし、眺める景観の一部であり、レクリエーションの場の一部として戸外の一部が森林であるだけである。療法に到っては様々な障害の治療法を指すが、森林という場所がどのような障害にどのような治療効果を発揮するかは明らかではない。生態管理、歴史伝統、風土工学、地域計画、都市計画、環境政策、環境教育、緑の効果、治山治水、生物多様性は、森林に限定されないていない点で、外縁からの関係であろう。
 森林の効用には、森林の内的関係の関連分野が影響するのであろう。森林の効用は人に対する関係である点から、レクリエーション、療法(治療効果)が、森林を場とした時に発揮される効果であろう。森林の機能が発揮される森林立地は、森林景観タイプとなる景観の形成に関係している。
 森林自体の内的関係の関連分野から、木材生産、防災、環境保全生物多様性などの森林の存在効果が効用として生み出される。地域計画、都市計画、環境政策は森林には外縁的関係として、森林に社会的影響を与える関連分野といえる。

森林風致の概念
 上記の加藤さんの構想をさらに、どう展開すればよいのだろうか。清水さんは森林を知覚する立場と森林を造る立場の二面性として森林風致をとらえようとしている。その接点が森林が発揮する効用である。現代的に言い換えると生態系サービスということになる。森林を知覚する立場の源流をフォン・ザリッシュの森林美学におき、森林を造る立場を恒続林におくことによって、3者の関係が成立する。
 森林を知覚する側面から、人の意識に接近する。森林に美を意識するところに森林美学の構想が生まれた。森林に美を意識し、意識的に森林を造るところに、美の意識が加わる可能性を論じるものであった。森林を造る側面から有機体として森林を造ることが、森林美を生み出しているとすることである。森林には存在効果としての効用が存在し、森林有機体における生態系は多機能なサービスを生み出す。森林美はそのサービスの一部であるとともに、森林をトータルな美と認知する上で、生態系と多機能なサービスを同時的に知覚して生じる感性である。
 森林風致は森林と人が直接的に関係する森林環境の問題である。人の側からは、生活環境に森林が含まれた場合に生じる環境である。森林の側からは、林業のための森林育成の結果として林業的な森林環境が成立し、そこで、森林環境は森林を造るために働く人の環境として成立しているものである。一般の人々の生活環境には、森林は時たま、出かける部分的な環境である。また、生活環境を取り巻く山地の森林は、生活環境の背景となる周辺の森林風景として知覚の一部を構成する。林業従事者の森林育成の労働環境、一般の生活の部分的な森林環境、また、周辺風景の背景要素としての森林風景を、森林と人の直接的、間接的関係における環境が森林風致の課題となる対象となるだろう。
 森林を地表面を構成する被覆と見れば、土地利用の一部として森林景観が成立している。生活環境も土地利用として居住地や市街地を構成している。土地利用における森林と生活域、生産域の地理的な分布関係が景観を構成している。産業としての森林の成立は、そこを労働の場とする人々の存在を示している。広い範囲における森林と他の土地利用によって生じる景観は、土地利用変遷の動的関係を示しており、森林が土地利用の衰退による自然回復によって持続する点で、森林の衰退と逆に回復はにおける消長は、景観の動的関係を如実に示している。
 景観における生活環境と森林環境の関係は、森林風致の様々な局面を表すものと見ることが出来る。人々の生活と土地利用の関係が有機的に結合して一定の区域を占める時、人々の生活の範囲となる地域を見出すことになる。地域における人為作用と自然環境のポテンシャルの関係を生態系の動向としてもとらえることができるだろう。生活環境への自然条件の作用と地域的な相互関係による均衡は、風土作用として見出すことができる。

森林風致の展開