森林の機能

はじめに
 「森林の多機能性の発揮」が、森林政策の柱となっており、林業目的が中心の政策が後退しているようである。以前には「利益と効用」といわれ、林業における経済的利益に付属するものとして環境的効用が考えられていた。効用と機能の相違は何であろうか。また、文学的表現では森林の「恩恵、恵み」という表現もある。また、「機能」においても、単なる「作用」や「影響」という表現もある。これを「効果」と呼ぶこともある。今日、森林を生態系の一部として、「生態系サービス」という言葉が使われるということである。サービスの意味には、もてなし、貢献、奉仕、用務など上げられており、貢献が「森林生態系サービス」あたるのであろう。こうした用語の相違はどのような社会的条件で使われたかが問題である。
 機能性を発揮する「森林」においても使われ方に相違がある。ただ、存在としての森林か、森林環境か、森林の生態系か、また、森林有機体とはである。植生は地表の被覆であり、植生の最も厚い被覆が森林である点で、自然環境でもある。自然環境に対置して人工環境があり、人工環境は産業も含めた生活の場として形成され、生活環境と言っておいとすれば、自然環境に対置して生活環境がある。林業のための経済林は、生活環境なのか自然環境なのか、農村における薪炭林は生活環境なのか、は判別が難しく、自然の面から二次的自然とされる。森林を構成する樹種によって森林の多様さがある。
 森林と機能性との関係もまた、森林と機能性の多義によって、複雑で不明確である。

生活環境に対する森林機能
 生活環境の基盤として森林は様々な機能を発揮しているが、生活環境の内部でも森林の機能は多義であり、機能発揮のために森林を育成する場合もある。しかし、生活環境を造成する際に森林を開発によって喪失する場合も多い。1978年に米国内務省国立公園局・米国造園家協会編G.O.ロビネッティ著三澤彰・山本正之訳:図説生活環境と緑の機能は、生活環境における樹林の機能を総合的にとらえており、この問題に付け加えることもなさそうである。しかし、実際の生活環境ごとに樹林の量、質は相違し、複合した効果がどのように機能しているか、複雑である。樹林があることによって快適であっても、その快適さが自覚されずに、落ち葉や枝が落ちた時の危険性などから、居住地内の樹木・樹林が邪魔者とされていることも起こりうる。
 生活環境内に植栽されたり、残存している樹木が樹林が、その機能を発揮し、環境を改善する効果を
 農村環境は、森林が開発されて、農地や集落の生活環境を成立させたものであり、近接した森林を資源的・環境的に利用する点で、森林は農村の環境の一部となってきた。生活環境、農地環境に森林機能は大きな効果を発揮しているといえる。しかし、農村における農業生産の方法が、機械化、化学肥料などへの改革によって変わり、生活方法も兼業化、都市化して、森林資源への依存は不必要なものとなった。森林の効果は地域環境として持続しているが、森林自体が管理放置によって自然的に変化し、森林の効果にも影響して、農地、森林への獣害などの悪影響も生じている。
 都市近郊の山地では、住宅開発などで、森林が切り開かれ、開発地と森林が直面する状態も生じている。山地の宅地開発は災害の危険が大きく、開発規制を伴って行われ、防災工事も伴うものとなっている。森林に近接している住宅地は、森林環境によって恵まれた緑地が提供されているように思われるが、開発時点でどれだけ森林環境の効果が配慮されて森林が確保されているかは疑問である。しかし、それでも近接した森林環境は、住民が生活の様々な場面に接する可能性がある。森林への導入路、散策路が確保されれば、享受の可能性は増大するだろう。農村地域における宅地開発は、農村環境を媒介として森林に接触することになり、森林の接触はより容易となるだろう。

自然環境における森林効果
 自然環境が残されている区域は人為の及ぶことの少ない奥地などの開発困難な場所である。森林は厳しい自然条件を緩和し、豊かな生物相をもたらす効果がある。森林の輪廻や地形変化によって森林、土砂、崖などの自然破壊が進行するが、人間の生活環境に近接していなければ、災害とはならず、また、広い範囲ではその破壊は部分的であるか、あるいは長い周期的な変化の一端に留まる。人為の自然破壊となる開発に森林効果の維持のために、規制することは、森林法による保安林制度によって実行されてきた。また、自然接触のために豊かな森林環境を保全することも社会的な要求として生じてきた。森林の開発から、保全、保護への転換は、森林が多様な環境効果を持っているためであり、部分的な効果、機能というよりは、森林環境のもたらす自然の全体的な恵みというものであるだろう。

人工林の森林効用
 人工林は戦後の植林で広大な面積を占めるものとなった。人工林は林業目的の植林が生み出したものであるが、林業経営は限られた地域にしか成立していないために、人工林の多くが放置された状態となった要因である。林業地域以外での人工林の効用は、山地荒廃の緑化であり、侵食、崩壊の防止と地力回復であったろう。それに加えて木材資源の育成に期待が寄せられたが、林業経営の成立にまで目標が設定されていなかったのではないだろうか。

生態系と森林有機
 森林は生態系を形成していると考えられるが、どのような規模で森林生態系は成立しているのであろうか。一本の樹木でも樹冠によって日陰ができ、また、風雨を遮ることで、樹下の環境を作り出している。数本の木立はその効果はさらに大きくなる。草本類の生育条件に影響して、日陰の植物が共存してくる。その木立が数十本の規模となると樹冠が連なって、林冠を構成し、林冠の日陰によって林内環境が生じ、林床植生の群落が生じる。林内に対して、林外は林縁によって遮られる。これを林分とすれば、林分において生態系の単位を成立させているとみてよいのであろうか。しかし、さらに林分をいくつもの林分の集合として見て、同質の林分に連結し、異なる林分に隣接して、より広い林地となっている場合の範囲をどのように考えられるであろうか。林分の相違は立地条件による成育樹種の違いによるものと、林分の更新による林齢の相違によるものとによるとすれば、地形による立地条件と林分成立の林齢差を単位とした広範囲な生態系が考えられる。地形単位からは、小流域における上下による水分条件や土壌流出による土壌条件の差異が想定される点から、流域が生態系の単位となることが考えられる。山地は尾根によって区切られたいくつもの流域単位で構成されているとみなすならば、流域単位の生態系の集合によって、山地の生態系が成立し、山地と山地に成立する大流域の生態系が成立するといえる。
 森林有機体は、森林生態系に森林経営が関連して考えられているのではないだろうか。森林経営における皆伐施業の単位は、林斑、小斑によって林地を区切ったものであり、林齢が相違し、相違した林齢が循環的な森林更新に配列した法正林、法正状態を目標とした持続的な森林経営単位が考えられる。森林経営単位の法正林から生態系による森林持続に、逆転させたところに、森林有機体が発想されているのではないだろうか。森林の機能が生態系を生み出しているとすれば、生態系が中心となった森林の機能は、森林生態系を再生産していくことになる。

まとめ
 森林機能の発揮による森林効果は、生活環境に向けて発揮される。森林機能は生活上の要求と対応している。森林機能の発揮は、森林環境によって発揮される。森林環境の変化によって森林機能が量的質的に変化する。森林環境は様々な要因によって構成され、要因の構成は動的な生態系における調和によって成立している。人工林の森林経営において輪伐期を設定し、法正林として森林区画を配置することによる人為的な森林の持続が考えられた。その人工林を合自然的に取り扱う必要が生じることによって、森林生態系に従属した森林経営として森林有機体が考えられた。森林有機体において、森林環境は動的な変化の中で安定し、多様な森林機能を最大限に発揮する。
 以上は多様な森林がどのような森林機能を発揮するのか、森林機能を最大限発揮する森林環境を成立させるためにはどのような森林を成立させればよいのかの一つの仮説あるいは既に考えられていることの関連性による概論を考察したものである。仮説には験証が必要であり、関連性は文献検証が必要である。