山の風景 山林の模様

はじめに
 山と神社は森に結びついており、山の森は山林と呼ばれる。平地の多くが農地や宅地として開発されて森林が残りえなかったためであろう。平地に残る斜面にはわずかな樹林が成立し、集落の中心の神社や寺院には境内林が点在する。山地と平地は谷の平地と尾根の山腹との入り組んだ関係で蛇行している。谷の奥は山地となり、山腹は沢の細かな流域が山腹の襞となって山地に地形の肌理を作り出している。その表面を森林が被覆している。その森林は地形に応じて森林を構成する樹種を変化させ、また、森林利用の時代的変化に即応して、林相を変化させており、森林を構成する林分の区画は土地所有などの社会的条件を反映している。林学の専門家ならば、こうした地域の山林変化を一目で理解するのであろう。しかし、一般の人は見慣れた近くの山林の風景を深くは理解しようとはしないだろう。山林の模様は、地域の歴史的変化による森林の過去の履歴をその成長過程によって表わしているものなのに、多くの人は関心を持たないのではないだろうか。

里山辺・入山辺の谷が山地の奥まで続く。
美ヶ原高原の台地が背景となっている。
浅間温泉 山林は山火事の跡地である。
郊外農村部の山林

山林風景の構成
 植林は立地条件に従って樹種が選択されるべきとされている。谷の湿潤の場所にスギを、尾根の乾燥した場所にはアカマツを、山腹にはヒノキを標高の高い場所には、カラマツがというわけである。適地であれば自然に生育する樹種を利用すればよい。尾根などのアカマツは天然林として成立するものも多い。広葉樹も植林が行われことは少ないが、天然林として成立する。山林の風景は天然林としての成立と植林による人工林によって構成されている。
 どのような地形にどのような森林が見られるか。そこから、地域の自然的条件や社会的関係や歴史的変化を読み取るか。理解するには内容の深い書物であるが、見るだけで、山地を覆う森林がいかにも調和が感じられ、人為を介しながらも自然そのものだと感じられる。これは人為のいびつさも長年の森林の成長と共に、自然のバランスが生まれるからであろう。
 また、季節変化は樹種が異なっても連携して生じており、人為のいびつさを隠すものとなっているのだろう。より以上に、広がりを持った森林の連動する季節変化に自然を感じてしまうからに違いない。そのようにしてる内に日々の変化や、森林成立の理解も忘れてしまいがちである。山林の利用が滞り、放置されているうちに変化しているので、注目する必要もないのだろうか。5年後にはたいした変化はないだろうが、10年後、20年後にはどうなるのであろうか。地域住民の生活には山林の変化も都市の背景にすぎないままなのであろうか。