日本の庭ことはじめ4 庭のデザイン論

はじめに
 岡田さんの著書は、多くの場所で論評され、ブログにも数十件以上で論壇されている。この詳しい分析はこれからであるが、これまでになかった庭園論として造園業界の範囲を越え、一般の庭趣味の深い人々、環境デザインの多くの分野からの評価が見られる。岡田さんどのような観点から庭園デザインを論じたのか、それがどのような点から広く論じられていくのかは、庭のデザイン論を今後展開する上で大きな根拠を持っていると思われる。まさに、本の題名ともなる「ことはじめ」であり、この「日本の庭」のデザインの根拠の論議は著者の意図したことであると言えるのではないだろうか。

日本庭園のこれまでの論議との関係
 日本庭園のデザインを論じた先覚者には重森三玲氏、森蘊氏、田中正大氏がいる。重森三玲氏は実に広い庭の実測調査によって歴史的な庭のデザイン構造を明らかにしながら、作庭活動によって庭園の芸術的な創造を提示していった。森蘊氏は考古学的な実測調査によって歴史的な庭園の過程と庭園築造における施主、作庭者の庭園デザインを構成した関係を明らかにしていった。両者は膨大な実測資料と多くの著作、また、重森氏は多くの作品を残している。田中正大氏は「日本の庭園」という一冊の著書によって歴史的庭園を題材にしたデザイン論を展開した。ただ、このデザイン論の現代に継続する過程は明らかにされないままである。
 岡田氏は現代に作庭活動を実践する上で、近現代の庭園デザインの構造を解明しようとしている点で断続してはいるが田中氏の庭園デザイン論の過程に連続する可能性をもっている。また、実際の作庭家として重森氏と機を一つとして創造的にデザイン論を展開している。残された歴史的庭園におけるデザイン論と現代の創造におけるデザイン論がどのように関連しているかを示唆する、デザインの根源の洞察によって、森氏のデザイン論との関連の可能性もある。岡田氏の論を通じて、これまでの論議を構造的な展望で再認識する可能性が大きいのである。

庭のデザイン論の展開
 まず、現代の庭のデザインが直面している点が問題となり、岡田氏は近現代の作品とその形成過程を論じている。庭園が形成される上で施主の要求と庭師、庭園デザイナーの力量、庭の場所的条件が取り上げられている。
 施主の要求は、庭への趣味に由来するが、趣味以上に庭の環境からもたらされる生活スタイルといえる。庭のデザインは、施主の要求に比重を置くならば、要求である生活スタイル自体の創造性、芸術性の実現であるといえる。
 庭園デザイナーの力量は、技術の習熟と創造性であり、庭のデザインに直結している。しかし、庭のデザインの創造性は、施主の生活スタイルを創造することに直結している。デザイナーによって創造された生活スタイルの環境は、施主の潜在的な要求を発掘して顕在化させたものであることによって、施主に受け入れられるといえる。庭園デザイナーの力量のなかに、施主の生活への洞察力が含まれる。技術の習熟における、技術とは戸外の自然環境と敷地の場所的空間的条件を、土木と様々な材料とその施工技術によって、デザインの目的に即して改変するものである。
 場所的条件には、場所の空間に作用する自然条件、空間の周辺条件とともに、敷地の土壌だけに限らない土地自体の歴史などによる過去の経歴として示された条件の3点を考えて見なくてはならない。そして改変された結果としての環境は、その生活スタイルに作用した利用にとって場所的条件となる。それが庭空間であり、人、環境の交互作用が生活として、いわゆる弁証法的に展開し、生活と空間をらせん状に変化させていくといえる。