森林保護2

はじめに
 K先生のコメントから略奪林業、育成林業という区別を学生の頃の講義で聞いたことを思い出した。育成林業という言葉に林学を学ぶ大きな意義を感じた。しかし、略奪林業という言葉は理解できなかった。木材を略奪された森林の跡地は、森林が自然再生するのであろうし、山火事や、風倒などの被害による森林破壊と相違が分からなかった。少なくともそれに林業の名前がつくのはおかしいと思った。育成林業こそ林業であり、伐採以上に植林や森林更新に注意が向けられた循環的な生産システムによる森林の持続は環境を保持する。こうした林業の成立は、地域環境と調和し、産業として住民生活の基盤となるにちがいない。林業のために森林を保護する必要があり、森林の保護のために林業の成立が不可欠となる。
 林学には森林保護学という分野があり、この表題と紛らわしいことをおことわりしておきたい。

林業の成立による森林持続
 林業が成立するためには、森林蓄積が必要であるが、植林は森林破壊から森林を復旧させるための方法である。植林に将来の木材収穫を予定する所に林業の出発点がある。戦後の国土緑化のために植林は、育成林業の出発点であったのだろうか。現在、植林された森林は成長し、森林蓄積となっており、林業成立の条件が整っている。それにもかかわらず、木材生産が停滞しているのは、経営組織が成立していないためであろう。間伐によるさらなる育成が問題であるが、間伐収入の採算が合わないと放置される現状である。林業経営や林業地域が成立しているのは、大規模な土地所有者と歴史的な森林蓄積による経営条件によるものであるだろう。多くの森林が、小規模個人所有や歴史的な森林蓄積や林業技術、経営経験が無く、成長した森林を放置する状態があるのだろう。
 公有林、国有林では、林業経営が成立しているか、寡聞な私には、見出すことができない。国有林ではかって経済性を重視した方針で、森林蓄積の回復していない林地を目にし、地域の衰退に影響しているのではないか思われたのである。林業の成立しない森林は植林から森林が成立している結果からは、森林破壊とはいえない。しかし、問題は育成林業が成立しなかっただけなのだろうか。
 経営組織が存在すれば、林業経営の形態が生じることは、大学演習林において実現したことに見出している。しかし、大学においても経営に一貫した方針を長期に持続することは困難があった。この困難を克服して地域林業のモデルとなる実績を生み出して、林業経営の可能性を提示していくことが必要であるだろう。同時に林業成立の条件を分析し、現況の条件に適合した林業技術を開発し、林業経営の可能性を模索するべきであろう。島崎先生の簡便な木材収穫技術の導入と間伐の実行は、その現実的な可能性を示している。
 林業の成立が森林を持続させる点で、森林保護に有効な方策であるといえるのであろう。とはいえ、多くの人々の努力によって、未だ林業打開の道が見えないことは、軽々しい意見を言えることではない。

林保護の成立条件
 森林保護は、森林を開発によって失わない点で、自然保護の問題であるだろう。戦後、国立公園の自然保護が問題になったのは、開発への反対であり、森林開発への反対も含まれていた。国立公園の指定による景観評価が、自然を価値あるものとして、保護運動を正当化させた。しかし、こうした国立公園や天然記念物の指定による法的根拠のない、都市近郊の森林は開発によって喪失していき、経済的事情や地形的開発の困難さが、わずかな樹林を持続させた。こうした中で、生活環境の悪化が顕在化し、住民運動としての自然保護、森林保護が進展したといえる。しかし、なお、森林の価値の論拠の無い所では保護が成立する可能性は少なかった。都市近郊の森林喪失が極限にまで到って、希少価値としての森林は、単なる緑地、オープンスペースとして価値あるものとなった。
 森林保護が社会的に認められるためには、森林の価値が論拠とされるわずかな地域、区域でしか森林保護の可能性はないということになる。森林保護のためには、森林を価値あるものとなるよう育成する必要がある。その価値が認知される以前に、開発が進められる場所では森林保護はできなかったといえる。そのために森林を魅力的に、あるいは利用が行われる場所として育成、整備する必要がある。森林自体が価値あるものとして、そのまま保護して、利用に支障があり、魅力が育成されない森林は、価値が認められなくなり、開発の可能性が高まるだろう。

林保護の課題
 森林保護によって、森林の魅力を失う事例がいくつか見られる。保護は、放置につながり、放置によって森林が成長し、遷移していくならばよいが、過密による成長の阻害や、偏った森林構成によって遷移の阻害が生じる場合もある。どのような、森林であれば、放置、保護が可能であったのかを、解明する必要がある。
 また、森林に固定的な景観の維持が求められる場合は、放置は森林景観の破壊となる。薪炭林による雑木林風景、吉野や嵐山の名所風景の持続は、適切な森林管理なしには成功しえない。その森林景観が薪炭林などのように生産的利用によって成立している場合には、産業衰退とともに景観の持続も困難となり、産業の持続をはかる必要が生じる。これは、林業成立と森林景観の持続に該当することである。