ゴミ処理施設の立地問題

はじめに
 平成19年から20年にかけて、上伊那地域のゴミ中間処理施設の立地選定委員会の委員を務めた。以前、小規模なゴミ処理場が分散していたが、ダイオキシンの問題が起こり、その対策から、大規模な処理施設の必要が生じた。各市町村で行ってきたゴミ処理行政は、市町村の連合体となる広域連合の仕事となり、ゴミ処理の広域化と集中化も同時に進行した。増大するゴミに減量化、住民の費用負担の処置、資源化のための分別回収なども行われることになった。大量のゴミの発生は、生活消費のための物資の需要に対する商業的な流通による大量供給によって生じており、現代の大量消費生活では、必然的な問題であり、大規模ゴミ処理施設も不可欠な必要施設となっている。
 中間ゴミ処理施設は、ゴミの燃焼によって最終処理場における埋め立てゴミを少なくする施設であり、あらゆるものを融解、ガス化して燃焼してしまう溶鉱炉である。上伊那では一日150トン近いゴミが収集され、燃焼処理することが考えられている。30数メートルの巨大な建物に60メートルを少し下がる煙突が附属し、2.5ヘクタールの敷地が必要とされる。水の大量の消費が必要であるが、循環的に利用し、外部には排出されないようになっている。煙突から生じる燃焼したガスも冷却や触媒によって固形物と有害物質の除去が行われ、大気汚染の基準をはるかに低い水準で、達成している。
 しかし、必要かつ安全であるとされる大規模ゴミ処理施設は、その立地を予定された地域の住民から反対の声が上がってくる。20箇所以上の候補地の検討に、反対の生じない地域は、施設の立地としては不経済で、危険で、収集に不便な山奥となってしまう。その結果、自然破壊として、生活環境と別のサイドから反対が生じる。こうした結果、どこにも建設位置がきまらないまま、老朽化した施設の稼動が続き、ゴミ処理量も限界に近づき、周辺住民の不満と不安は鬱積している。
 問題は差し迫ってきており、広域連合の長である伊那市長に責任を預けて座視することはできず、広域住民全体の問題である。日々のゴミ出しとゴミ回収による搬出、その最終の行き先の理解を深めて、対処を住民各自の問題と意識する必要がある。

建設受け入れの賛否
 選定された地域で、反対の理由は、知識の不足による不安がある。また、どんなわずかな影響にも、過敏となる所の反対もある。また、建設の負担を負う地域の不公平感も影響する。正当な反対理由であれば、あらかじめ選定地の条件に合致しなので、選定地から外しているはずなのであるが、さらに他の反対の理由は何があるだろうか。ともかく反対がどんな理由なのかを集める必要がある。
 賛成もまた起こりうるが、土地売却による利益を目当てにした賛成は住民の一部であるために、賛成の理由とすることはできない。しかし、実際は地主の賛成を得なければ、用地確保が困難となる。全体の必要と一部の不利益の調整だけが問題であるとすれば、不利益分を全体が一部に補う必要がある。その場合の不利益とは何で、それはどれ程なのか算定する必要が生じる。反対にはこうした不利益の根拠がどのようにあるのだろうか。

用地選定委員会の役割
 無用な混乱を避けるために、最善な箇所を1箇所だけ選定する。公開による解放された議論を尽くし、選定理由を明確にする。しかし、選定は候補地間の相対評価であり、環境影響調査によって妥当である判断が必要である。選定地住民の受け入れ反対への市長による説明や説得には、委員会とすれば説得の根拠となりうる選定理由に到達する検討を進め、判断の根拠を現時点の専門的科学的調査に依拠する。これらが方針であったかは厳密にはいえないが、こうした合意は当然にあるものと考えていた。
 用地委員会には様々な立場を代表して委員が出ている、市会議員、地区、団体、個人など、市会議員は各党派からといった状態である。立場の違いは意見の違いでもある。しかし、一つの結論に到達することが命題となる。議長を決めるのに早速異論があり、いつの間にか自分が議長席にいた。ともかく、すべての委員が、自分の意見を表明し、その上で議論することが大切だ。ゴミ処理施設の必要性への異論もそうしている内に合意に達した。異論は常にあったが、それを十分出し合い、互いに知ることによって、合意の線が見えてくることで、誰もが不満のない合意が不思議と成立してきた。不可思議なことであったが、各委員が、住民としての問題意識と問題解決のための理解を共有するようになった。意見を妨げなく、十分に発言を行うことがこれを生み出したのであろう。暴言はたしなめられ、良い意見には合意が生まれ、結論は多数決や投票もあったが、その結果には妥当性があったといえる。
 こうした議論と結論に市民のコメントが加わり、これも議論への参加としてすべて受け入れて、結論に役立てた。しかし、この手続きが市民合意への道とは言えない。委員会が市民の意見を代弁して議論を進めたつもりでも、個人の意見の範囲を越える事はできない。そこで、市民全体への意見募集も行われたが、回答は限られたものであった。それは、委員会への関心の欠如なのか、委員会への無言の賛同なのかは定かではない。声なき声に不安が残るのはやむをえない。
 委員会の合意はできても、多数の市民、住民の合意は難しく、民主主義を貫徹することは難しい。行政上地域、地区は一連の組織であるが、住民の立場となって地域から行政に対した場合、自治組織であり、自治体である市の行政と対抗した関係が生じてくることも実感した。地域から区長の意見書が提出され、住民の総意が形成されるからである。どこまで、自治体行政の中で地域自治組織の権限が認められるのか、大きな疑問が生じた。用地選定後の交渉組織として市長が対処しなくてはならないが、委員会検討段階では、住民の総意とする区長の意見は、取り上げることは躊躇された。
 かくして、困難であるが、簡単な結論が出され、市長に答申したのである。

選定地域における市長の交渉
 ゴミ処理施設の必要から用地選定地域と交渉する部署の市役所職員は、頻繁に地元地域への説明に出向いているが、そこに必ず市長が同席しているとのことであり、市長自らが地元と誠意を持って交渉する約束を実行している。その説明会の中身は分からないが、この誠意は、なんらかの合意に達することが予感される。住民は地域自治組織を通じて、その説明会に出席している点で個人的な意見は、地域の中で受け入れられないだろう。