ニセアカシアの谷

はじめに
 松本アルプス公園の東の入口は、谷を長い橋がかけらている。その谷は一面にニセアカシアの林となっている。公園拡張整備計画の論議に、ニセアカシアの林は自然環境ではないとして問題となった。今、花の咲く季節となり、この谷から沸き立つような甘い匂いが溢れ出ている。白く大きく垂れ下がる花房は、藤の花に負けない美しさで、白い花の清浄さと明るい緑の葉とは調和している。すくすくと伸びて大木となったニセアカシアは荘厳でさえある。密生した林では潔く立ち枯れ、隣接の樹に生育を譲っている。しかし、ある池の周辺の樹木の整理に、水辺のニセアカシアの大木を除くことになり、1本ぐらいを残すことを勧めたが聞き入れられなかった。


 ニセアカシアにハリエンジュとなると、何故、そんな借り物の名前がついたのであろうか。独自の特徴も無い、たいした価値も認められない樹だったから、人から嫌われているのだろうか。街路樹に防災のための植林と晴れ舞台に登場したのに、プラタナスユリノキのように珍重と親しみが生じなくなったのは、防災の実用に使われた結果であろうか。
 何故、多くの場所にニセアカシアが植えられたのか、そして、今は極端なまでに嫌われているのか、大きな謎であった。そうしたら、小山さんから高価な「ニセアカシア生態学」の著書を送っていただいた。花の咲く季節となって、目当てにしているニセアカシアの大木の写真を取ることを思い出し、長年の疑問を解くように勉強をさせてもらわねばならない。

ニセアカシア生態学文一総合出版2009
 この本には驚くべきことが多く書かれている。前河氏によれば、地元、松本、牛伏寺川流域がニセアカシアを日本で最初に砂防樹種に導入したということである。砂防工事が1885−1918年に行われ、そこに導入された4種の植林樹種の一つがニセアカシアであったということである。戦後に伐採後、ニセアカシアのみに占有されていたそうである。松本にニセアカシア林の多いことが納得できる。松本ばかりではなく、長野県の都市周辺部の崖地などにも多く見かける。一方、街路樹として見かけることはほとんどないのである。
 北米産の樹木が明治初期に日本に導入されたそうであるが、ヨーロッパの国々にも導入されて、有用な林業樹種として利用されているそうである。久保田氏は長野県における木材利用の試験について報告し、その有用性を実証している。ニセアカシアの分布は、河川、海岸、などに広がり、長野県にも多いが、北海道にも多いようである。繁殖力の強さから、要注意外来生物の指定を受けているとのことであり、問題となっている点であるのだろう。この本ではニセアカシア林の生態、生理特性の研究を通じて、管理、利用、駆除方法に論及し、ニセアカシアが生活に役立つ可能性を展望している。