超巨大開発と自然保護

はじめに
 先日、かって南アルプス自然保護運動を共にした仲間から連絡があった。まだ、開発に立ち向かって自然保護運動を展開する気力があるだろうかという問い合わせであった。昨日は、その開発の全容が明らかとされつつあり、その開発地に直面した場所に住んで、なにか行動を起こすことを迫られているということの連絡であった。この窮状に協力することを約束したが、仲間も私も年老いている。もう、後がない状態であるが、だからこそ行動を起こすことに意味があるのかもしれない。それは、自分達のためではなく未来の、子孫の、ためであるということである。理想は時代を超えて追求されるものであり、それによって理想が歴史に転換するのだといえる。それに、1人が2人いれば、組織となる。3人へと増大すれば、運動の展開となる。30年以上前の自然保護運動は命脈を保っていることの証明にもなる。若い仲間が賛同して加わってくれればよいのだが、子供、孫の世代に永続するように。

超巨大開発
 この開発とは、リニアモーターカーである。この情報は検索していただきたい。飛行機に近い時速500kに達して、東京ー大阪を1時間で結ぶという交通機関である。既に、1970年代から注目され、実験線も建設されて試験が行われていた。東海道新幹線の利用増と地震の際の代換線として第二新幹線として中央山地を地下に作られることが考えられてきた。まさに日本の交通網の将来の骨格となる計画といえる。開発主体はJRであるが、開発による付加価値によって国土利用の状態を転換させる可能性がある。その開発可能性は、この新幹線の駅が中心である。東京。大阪の間に5箇所ぐらいのの駅が考えられているようである。路線と駅の位置を巡ってリニアモーターカー建設の推進運動が各地で展開している。大深度地下に建設されるとなれば、路線部分はメリットもなく、同時に環境問題も起こりえないだろう。

自然破壊の心配
 南アルプス甲府盆地から飯田に出てくるまでに地下を通過することになる。地質調査が完了し、工事の認可がなされると、計画が立てられることになるだろう。しかし、既に路線などの計画があるから、地質調査が行われたとも考えられる。
 自然保護の仲間は、この南アルプスの住人である。その大鹿村は、昭和36年の36災害と呼ばれる豪雨により、大災害が起こり、以来、その復旧工事が長年続き、これによって山村の社会構造が変質することにもなったのであるが、その工事が終了する時期に静岡に抜ける林道工事に地域開発の期待がかけられるようになった。牧場の管理を担当していた仲間は、牧場に林道工事が行われる計画から、自然保護の運動を行うことになった。建設産業の優勢な村での開発反対は大きな抵抗を受けていただろう。しかし、その自然保護は、見失っていた山村の本来の自給自足的な生活の持続でもあったのである。復旧の建設ブームが去ろうとして、本来の生活を取り戻さなければ、山村は壊滅していただろう。林道工事は止まり、高度経済成長は過ぎ去り、その山村は過疎の状態に戻った。大鹿村の歌舞伎の伝統を復旧して、住民の意識を奮い立たせる活動も展開し、住民生活に落ち着きが戻ってきた。山村の良さが見直され、確か日本の美しい村とも評価されている。仲間は牧場を経営し、チーズを作り、それを自然保護運動の時期に赤ちゃんだったお子さんが受け継いでいる。
 リニアの路線の計画は、小渋温泉の近くに引かれている。仲間の心配はリニアが地下から谷に顔を出さないか、顔を出すことによって、トンネルの土捨て場に村がされないか、通過する路線から電磁波の被害を心配することになるのではないかである。願わくば、地下で通過してもらいたい。まだ、計画の内容が明らかでないので、それを探り、地下通過の要望を出したいというものであった。工事が認可され、その概要が明らかになれば、様々な賛否の主張が沸騰するであろう。混乱した議論を整理し、無用な対立を避ける合理的な計画を願うが、自然保護運動は、山村住民の本来的な生活を守り、安易な自然破壊を許さないために必要なのである。