生物の風景

はじめに
 生物多様性、生態系サービスは、国際的な課題とされている。しかし、身近な生物空間、生態系はどこに見当たるのであろうか。住宅の中から見出そうとすると、鉢植えの植物が目に付く。皆、園芸種で栽培されたものである。しかし、鉢の僅かな土壌に根を張って健気に生きている。庭のある人は、庭に草や木を楽しむことができ、住宅地では道に面した庭あるいは生垣が目に入ってくる。各家の庭の植物が数十種であれば、住宅の集合した場所の植物の種類は数百種に及ぶだろう。市街には街路樹、公園の樹木が目に入る。居住地に生物の内、植物の種類は、非常に多いといえる。しかし、生物多様性はこうした人工的に栽培した植物のことを指しているわけではないのだろう。
 植物に対して動物について、犬や猫、あるいは鳥、などを飼育し、魚類も水槽で楽しむ人もいるだろう。人工的であれ、生物空間に人々は愛着し、趣味としている。しかし、自然の生物空間は地球上の全域に存在し、その生物空間を破壊し、改変したところに、人間の生活空間が成立し、人口増加とともに拡大し、自然の生物空間を狭めたことは確かであろう。陸地の人間活動は、特に自然の生物空間である森林を破壊し、破壊し続けている。しかし、人間活動の地域的な持続は破壊し続けて成立することはできず、自然を育成し、利用することも必要となった。そこに、原始状態から改変された森林空間の育成と持続が見られるようになった。
 地域的な土地利用で見ると、居住地、市街地、工業生産地、農業生産地とともに森林空間が残されている。農業生産地と森林空間は拮抗した関係にあるとともに、集落を中心とした地域単位で農地と森林が補完関係にある。この地域単位の集合によって成立する農村地域に対して、市街地を中心して居住地、工業生産地を包含する都市地域が拮抗し、都市地域の拡大によって農村地域が蚕食されている。
 工業の発展が人口増加の原因となって、世界的な人口増加が問題となっている。食糧難、資源の争奪による戦争など人類の危機も増加し、地球的な環境破壊が問題となっている。環境悪化は直接的な自然破壊とともに、人間活動による排出物によって生じている。ゴミ、廃棄物、水質汚染、大気汚染、土地汚染、人工地の拡大による環境変化と様々な環境構成要素に影響が生じ、地域住民から人類及び地球上の生物全体に及ぶ環境危機の状態にあると言えるのだろう。

生物空間の持続と回復
 誰もが考えることであろうが、生物空間の持続と回復は、農村地域で歴史的に是正がされながら人間の生活空間との関係の中に成立してきたことである。しかし、工業化と都市化の社会への比重増加によって、農村地域の比重低下と衰退が生じてきた。一方、農業は食糧確保に不可欠な産業であり、個人的、地域的な自給によってもある程度成立できるものである。土地利用の点でも広大な区域を占め、同時に、自然環境と密接な関係がある点で、周辺自然地域の利用と持続を必要とする。
 危機的な生物空間の持続には、危機の要因を解決しなくては達成できないことである。生物空間の保護のために人間活動の影響排除も考える必要はあるだろうが、現実的、長期的な対処とはなりえないのではないかと考える。