風景の模型(14)森林空間

はじめに
 森林空間は樹木によって構成されている。樹木空間は幹と枝、葉によって構成されている。枝と葉は樹冠を構成している。その樹冠を幹が支えて傘のような樹木空間が生じる。この樹木空間が集合して森林空間が構成されるのだが、樹木空間の集合は隣接する樹木間の緊張した関係、あるいは均衡した関係によって成立している。樹木の成長は樹木間の緊張を強め、陽光の争奪によって優劣が生まれ、その結果、均衡が生じる。自然林では稚樹の生育から競争下に置かれて、その成長過程が森の形成か森の更新の移行過程となり、緊張と均衡、変化と安定を交互に繰り返すのであろう。人工林では植林時の植栽間隔によって競争関係に到達するまでの時間と競争関係を緩和する除間伐の密度調節で緊張が緩和され、人為的な均衡、安定状態を確保することができる。
 樹木による森林空間の構成は、こうした緊張と均衡によって生まれている。この構成を模型としようとした時、針金の垂直な幹と紙で作った円錐形の樹冠で1本づつの模型を作って配置してみた。しかし、押し合いへし合いで、現況の森林の模型とはならなかった。樹木間の均衡は、幹の高低、曲がり、樹冠の大小と形の変化によって相互の立体的な組み合わせとして存在しているので、紙と針金の模型では無理であった。しかし、これによって、森林空間の複雑な均衡を知ることができた。模型は森林空間の構造を認識する上で有効であることがわかったが、それぞれを変形させ、それを組み合わせて示す模型は、高い技術が必要となる。これは、画像によるシミュレーションでも同様であるだろう。類型的な認識を超えて現実的な認識に近づくためには、模型の媒介から現場での変化に即応する転換点があるのだろう。

森林空間
 二つの空間を重ねることはできない。これは物理的な広がりという空間の概念に関わる原則だろう。森林の上からの平面は航空写真によって樹冠を単位として林冠の樹海として見ることができる。林内に入って、この林冠を見上げると、樹冠が重なり合って見え、これを測定して描くと樹冠投影図ができる。樹冠投影図は樹冠の筒状の影の重なりで、林冠は上から重ならない部分が見えている。どのように重なっているかは森林の断面図によって描かれるが、細長い区画でトランセクトの断面が示される。二つの図を合わせて見ると、箱の上と横が見えてくることになる。箱の中は空洞ではなく、樹木空間で充たされており、枝を伸ばし、葉を広げた大小の樹冠が高低の幹に支えられている。
 それぞれの葉、枝、樹木の生育は、光線の受容にかかっており、直射光、間接光の受容にしたがって、樹木、枝、葉の空間的位置が決定し、光線の欠除去によって空隙が生じてくる。林内では影の濃さと空隙とは一致し、林床至って草本層の生育に影響している。
 樹冠の高低の位置は樹木の年々の成長の累積であるが、その成長速度は樹冠の大きさによって決定づけられる。樹冠の大きさは隣接する樹冠が無くならない限り、円筒上に上方に幹とともに伸長する。伸長の優劣によって、隣接した樹冠の上位に出ることが出来れば、樹冠を拡大することができる。樹冠の拡大は樹冠と樹高の伸長を一層、増大させる。一方、優勢な木の下方の樹冠は影の下で、衰退する。その衰退によって、さらに下層の樹冠が息を吹き返す。かくして、年々、樹冠の配置が徐々に上空へと上がりながら、変化して行く。光線との関係に因果付けられ、また光線が成長の原動力となっている点で、空間の動的変化と見ることが出来る。ある時点の森林空間はその変化の断面である。
 上記は光線と樹冠の成長の類型的な森林空間の把握であるが、実際は様々な樹種の特性に従って、森林空間の動的変化を判断しなくてはならないだろう。樹木空間の形態と隣接する樹木空間の構成は、かくして、構成的な関係が生じているはずである。隣接は四方に生じており、隣接した樹木空間にさらに隣接する樹木空間が存在して、波及的にこの樹木間の構成は森林内に広げられる。森林全体が多くの樹木の空間構成によって成立し、動的に変化するということができる。
 この森林空間も模型として表現することは、ある成長段階に固定して、樹木間の組み合わせによって成立する森林構造を示すことが出来るということである。頭の中の類型的判断を縮小した模型によって、樹木空間の組み合わせの可能性を実像化させる方法となるだろう。

模型の意味
 森林空間の模型において、ただ、樹木の模型を並べただけでは、森林の実体は樹木が存在しているのが、森林であるという、概念的な認識を示しただけであろう。樹木間の組み合わせによって森林空間が成立するためには、その組み合わせの部分となる樹木の模型を個々に作る必要があり、それによって組み合わせを再現する必要がある。こうして作られた模型は森林空間の複雑な組み合わせを縮小して実像化することによって、森林空間の構造を的確に認識する補助となるだろう。模型は空想を実像化することができるとともに、空間的現実をその模型の実像から認識するのに役立てられるといえる。
景観模型工房作品