ブドウ園の香り

はじめに
 ブドウ園のそばを通ると、甘い香りに包まれる。この一瞬のために農園の主人は丹精を込めて育成に取り組んだのだろう。しかし、この香りに浸ることもなく、働き続けてブドウの実を摘んで売りに出さなくてはならない。その実の色を眺め、味を味わうのは、ブドウを買った人なのだ。ブドウの実はブドウ色に白い霜にかかったように高貴な模様をつけている。丸く張り詰めた実は大きな宝石のようであり、その房は豪華である。このブドウの香りは全く、ブドウに相応しい香りである。
 山ブドウの実も熟して、香りをまわりに広げているのであろうか。その色づいた葉は森の中で際立っている。匂いが無くても、葉の紅葉が山ブドウのありかを知らせる。この香りを芳醇というのであろうか。実の時から酔わせるような香りである。熊や猿たちもこの香りに引き寄せられるのだろう。藪の荒れた場所は動物を集める豪華な宴会の広場と化すのであろうか。