日本の庭ことはじめ6 デザイン論

はじめに
 岡田さんの著書は庭園史の本として位置づけることが出来ないことは明らかである。庭園を鑑賞するための本でもない。庭園デザインの本と言ううことは出来るが、単なる庭造りではなく、庭造りに根拠を見出そうとする本といえるだろう。庭づくりは誰でも敷地があれば、その僅かな土地に庭造りが試みられ、それぞれの住宅に個性的な様々な庭を見出す。一方、庭園といえば、庭師の仕事で、現代では造園家のデザインの領域だと言えるのかもしれない。岡田さんは造園家として活躍し、多くの庭園デザインを行っている。日本庭園を現代造園デザインの考えに生かすことは、既に数十年前から言われていることではある。それを実践した造園家を著書の中で何人か取り上げている。岡田さん自身のデザインは、アーバニズムに即応していないことが指摘されているそうである。しかし、どれだけアーバニズムの要求に沿った造園デザインを実践できた人がいるのだろうか。貧困なる都市風景は改善されないままであり、日本庭園の緻密さは都市の殺伐とした環境に即応するにはあまりにも別世界である。せいぜい、屋上の自然風庭園に逃げ込む場所を見出すだけかもしれない。
 岡田さんが庭園デザインの名前を出さず、日本の庭ことはじめを本の名前としたのには、理由があるのだろう。庭と庭園デザイン、日本庭園とアーバニズムの関係は大きな隔たりがある。アーバニズムを現代的都市の状況への取り組みとするなら、そこに日本庭園がどのような意味を持っているのか、そもそも日本庭園とは歴史保存の対象のようなものかなのか、生活空間としての庭とはどのような関係とあるのか、大きな疑問があるはずである。それは、生活スタイルが現代化して、新たな庭を求めている一般的な課題でもあったはずである。岡田さんの著書は庭園デザインと庭づくりをつなぐある課題を包含し、それに迫ろうとしている点が、多くの読者を獲得した点ではあるまいか。このある課題を解き明かすことが、今後の庭園デザインが庭となりうる第一歩である点に「ことはじめ」があるのではないだろうか。この素朴な課題をどのように展開するかが、岡田さんの問題であると同時に、読者自身の問題であることに清新さがあると考える。