風致林施業の継続

はじめに
 施業林は木材生産の目的によって施業方法が選択されており、様々な施業方法がある。戦後の植林、拡大造林における林種転換における造林は、当時の林業政策であったが、施業林の成立を目指したのであろうか。植林された林木が成林し、収穫期に達しても、採算が合わないために放置されている状態は、経済的な変化の中で止むを得ないこととされているのだが、長期の森林蓄積を持って循環的に成立する森林構造には、時代によって変転した林業政策は大きな誤りであったといえる。林業政策から森林政策への転換も、政策として打ち出されているが、森林放置の現状は急速には改善されず、また、森林育成目標も、主眼とする木材生産目的が見失われ、循環的な森林構造の視点が定められていないように思われる。
 しかし、施業林として経営的な運営主体が定まっているところは僅かで、多くの個人所有によって林業経営が成立しえない森林が多いことも確かである。林業経営の可能性のある、大規模な個人所有も所有者の意向と事情にかかっている。市町村有林は林業経営の可能性があり、また、植林、森林育成などの実行も行われてきた所を見かけるが、木材生産の採算がとれず、役場の機構の一部が経営を担当するところからか、いくつか、林業生産の目標を転換した市町村有林に関係して、施業林から公園林や風致林、この区別はあいまいであるが、転換が図られる計画に関係したことがある。

市有林のカラマツ林
 駒ヶ根市の場合はカラマツ林にハイキング地としての利用を高めるものであった。間伐の遅れたカラマツ林は高密で林床はササで一様となって、施業林としても健全な状態ではなかった。風致育成の可能性も限られていたが、現状のカラマツ施業林の目標を高齢林への育成とし、それに、将来の森林更新の可能性を考えた更新木育成を図ること、その際に残存している下層植生の回復とササ対策を付加するものであった。ハイキング利用者のための楽しみとして、展望を見通し伐開によって再現し、休憩場所として設定したり、花や紅葉の美しいノリウツギヤマツツジ、カエデ類の生育場所を明るくして持続をはかる。つる類も森林の多様さとして残すなどの美的配慮を加えるものであった。また、森林の競争による変化を見せる優勢木と劣勢木の競合した樹群などを残すなどを加えることで、風致林施業と称した。すなわち、風致林施業は施業林と異なるものではなく、施業林に付加される森林の取り扱いということになる。施業林を継続させた間伐だが、従来の機械的な量的間伐とは異なり、古典的な質的間伐への回帰と言えるだろう。経験的な間伐木の選定は、その結果生じる利用者の森林体験に反映されることになる。
 この実行に当たって、人工林への新たな偏見が生じているのに気がついた。カラマツ林自体を良くないものとして、現状の森林の中にある可能性を無視して、新たな樹種で風致林を作るというものである。これは実際の計画の提示によって偏見を是正することが納得された。施業林としての継続が重要であり、森林の変化は長期間の更新による変化によってはじめて可能であることが納得されなくてはならない。しかし、施業林から風致林への転換が、森林の長期育成から一時的改変による森林改変を固定化する短期的手入れに終始する危険性は大きいといえる。

村有林のアカマツ
 南箕輪村の村有林は明治に植林がなされ、林業経営が行われるようになった。二十数年前に島崎先生によって施業計画が立てられたが、林業の不振で十年前には放置された状態となった。半分は森林内に運動施設や宿泊施設が作られ、都市公園にもされて、住民や観光客に利用される場となっていたが、半分は施業林として維持されてきた。放置状態の改善のために、公園利用にも供して手入れすることが検討されることになった。長年、施業林として取り扱われてきたので、適切な間伐もなされ、林分配置も法正状態に近く、幼齢林から高齢林に至る齢級配置のアカマツーヒノキ二段林が成立する森林であった。